研究課題/領域番号 |
23654055
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
谷 温之 慶應義塾大学, 理工学部, 名誉教授 (90118969)
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研究分担者 |
井口 達雄 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (20294879)
高山 正宏 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (90338252)
野寺 隆 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (50156212)
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キーワード | primitive equations / Hele-Shaw flow / wetting layer / shallow water / long wave approximations / drift wave turbulence / Stepanov-almost-periodic |
研究概要 |
(1) 津波のモデル方程式の基礎理論となる水の波の運動に対する初期値問題の適切性, および浅水波近似,津波モデル,長波近似の厳密な数学的正当化を行った. さらに, 重力と表面張力の影響下で,斜面を下る粘性流体の運動を解析した.特に,薄膜近似のスケーリング下における初期値問題の解が, そのスケーリングパラメータに関して一様有界性を持つことを証明した. 1次元浅水波モデルに対する解の時間漸近安定性を, ある条件下で1パラメータ族の定常解が存在すること, 初期データが定常解に十分近いときは, 時間大域一意解が存在すること, その大域解が定常解に漸近することを証明すること, により示した. (2) Hurricane モデルについては, 前年度までの渦糸運動の研究から一歩進め, その内部構造, 発生・成長過程を研究目標として, バスタブ中における渦運動モデル方程式に対する初期-境界値問題の数学解析を行っている. (3) (粘)弾性方程式の研究については, ストレステンソルが変形テンソルに ベキ則で依存する(粘)弾性体に対する問題の数学解析が進行中である. 一方, Hele-Shaw セル中のニュートン流体運動に対する自由境界問題の境界濡れ現象の効果を調べた. この結果を基に, 亀裂進展問題の研究, ベキ則非ニュートン流体に対する Hele-Shaw 問題の研究, セカンド, サードグレイド非ニュートン流体方程式に対する Navier 滑り, 一般滑り (Tani) 境界値問題の研究を遂行している. (4) 数値気象予報の基礎方程式である大気, 海洋の各モデル方程式の自由境界問題に対する解のうち, 温度, 湿度, 塩分濃度の最良有界評価が求められた. 現在, 大気/海洋2相モデル方程式の自由境界問題の可解性に関する論文を執筆中である. (5) プラズマ物理学関連の研究としては, 抵抗性ドリフト波乱流のモデル方程式に対する初期-境界値問題の可解性を, 初期値がステパノフの意味での概周期関数である場合に証明し, 論文投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究テーマが多岐にわたっているので, 各テーマは同レベルで進捗していないし, 年度計画からは多少遅れ気味と思われるテーマもある. しかし, テーマ相互間の関連性から見て, 全体的な研究進展状況は概ね順調と判断している. 水の波の解析を通して, その浅水波近似, 長波近似の数学的正当化を確立した. それを基に, より合理的な津波モデル方程式が提案できた. Hurricane 解析において最重要, 最難関面は, その内部構造にあり, それを知ることは, Hurricane の発生・成長過程を解析する上で不可欠である. 現状では Emanuel モデルが唯一と思われるが, それと関連して, 渦糸方程式の研究結果を踏まえ, バスタブ中の渦運動に注目し, その初期-境界値問題に対する数学解析を開始した. 弾性方程式の亀裂問題に関しては, 前年度の結果を受けて, (粘)弾性方程式の exact 境界条件下での2相問題, 亀裂進展問題の解析が進行中である. また, それらは Hele-Shaw セル中の遅い流れの解析方法と共通点を持っているので, 非ニュートン流体, 特にベキ則流体に対する Hele-Shaw 問題, ベキ則(粘)弾性体に対する亀裂問題についての展望が得られた. さらに, Primitive 方程式を定式化する際のスケール極限と同様の極限操作により, Hele-Shaw セル中の非ニュートン流体流れに対するモデル方程式が導かれるので, Primitive 方程式に対する結果から, 非ニュートン流体運動の数学解析に重要な示唆が得られたと考えている. Here-Shaw セル中の流れは, 遅い流れなので, そこでの考察は血液流, マントル流の解析にも適用できる. さらに, 海洋に対する primitive 方程式には, いわゆる Boussinesq 近似が用いられているので, そこでの研究成果が地球内部の熱対流の研究に役立つものと考えている. 以上の理由から, 本課題研究は, 将来に亘る研究に対する展望をも齎すもので, 総合的に見て, おおむね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 津波解析を単なる海底面崩壊後の津波モデル方程式の解析に止めず, マグマによるプレート移動と海水運動の連成問題として定式化し, その解析を行う. さらに, Hurricane (Emanuelモデル, 一般モデル), Tornado 等地球物理学上の問題へと研究対象を広げる. それに関連する一部研究を既に開始している. (2) (粘)弾性方程式の問題については, 所謂ベキ則(粘)弾性体だけでなく, より一般の非ニュートン連続体に対する問題を中心に据えて研究する. その結果を亀裂進展問題の研究に繋げる. 非ニュートン流体に対する問題は, 多岐に亘っているので, 次の問題の研究から開始する; (i) ベキ則非ニュートン流体の Hele-Shaw セル中の運動, (ii) ベキ則(粘)弾性体に対する問題, (iii) 本課題研究から継続考察中のサードグレイド非ニュートン流体方程式に対する Navier 滑り, 一般 (Tani) 滑り境界値問題, セカンドグレイド流体に対する同様な問題, (iv) 非ニュートン流体に対する1相自由境界問題, 2相自由境界問題. (3) 有限長さ剛体管中における(非)圧縮粘性流体と遅い(非)圧縮粘性流体の流れに伴う2相問題の研究を行う. 引き続き, (非)ニュートン流体の helical tube, deformable tube, 曲がった管中の流れ, 特に血液流体に対する初期-境界値問題の可解性,とりわけ重要な脈動流について研究する. (4) 研究 (3) の問題設定における幾何学的形状の類似性から, トカマク中の抵抗性ドリフト波乱流についての研究も併せ行う. 日本では, 特に地球内部の熱対流, Thermal runaway, マントル流等地球物理学に現れる非線形現象に対する数学解析面からの研究が殆ど無いので, これらの問題を非ニュートン流体運動に関する研究の一環として研究を遂行する.
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次年度の研究費の使用計画 |
本課題研究遂行に欠かせない非ニュートン流体運動の非線形モデル理論について, Rational Mechanics の立場から再度検討し, 発展させるため, 25年度予定していた海外共同研究者 Rajagopal 氏の招聘が, 同氏の体調不良につき来日が延期となった. 本課題研究の遂行とさらなる研究発展のため, Rational Mechanics の立場から非ニュートン流体運動の非線形モデル理論を再検討し, 新展開を図る. そのため, 海外共同研究者 Rajagopal 氏の再度の招聘に充てる.
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