研究課題
本研究の目的は、将来の宇宙望遠鏡の光学試験に適用できるような、新しい波面縫い合わせ計測法を開発することであり、平成24年度は3年計画の2年目であった。平成23年度は主にソフトウェア開発に重点をおいたが、平成24年度からは実際の望遠鏡を用いた光学実験を行い、本研究で開発する新しい計測方法の実証を進めた。なお、波面縫い合わせ法とは、開口面全体を一度に測定することができないような大きな望遠鏡に対して、小さな平面鏡で瞳を分割して(サブアパーチャー)測定を行い、結果を一つの開口面全体の測定に縫い合わせるというものである。この方法で問題になるのが、平面鏡の面形状誤差であり、本研究ではその誤差を軽減する新しい方法を確立する。平成24年度に実施した具体的な作業内容であるが、まず、既存の30cm口径の平面鏡を回転させるために、クロスローラベアリングによる「観覧車方式」の回転機構を製作した。回転ステージには面ぶれ防止の機構などを設けて、高精度に回転制御できるしくみを取り入れた。この小型回転ステージに平面鏡をマウントし、既存の大型回転ステージに取り付けた。平面鏡を望遠鏡光軸中心に回転させながら、JAXA80cm口径の望遠鏡の透過波面をサブアパーチャー縫い合わせ法で測定した。平面鏡としては、面形状が高精度に研磨されたものと、意図的に面形状誤差を大きくしたものの2種類を用意した。後者は、縫い合わせ誤差を強調させ、実験での検証を容易にする。実験場所として、JAXA筑波宇宙センターの試験棟スペースを借りて作業を進めた。まず、高精度の平面鏡を用いてサブアパーチャー計測を行い、望遠鏡フルアパーチャーの波面形状データを得た。続いて、面形状誤差が大きい平面鏡を用いて、新しい方法による測定を行い、2つの測定結果を比較した。以上の研究進捗状況を、国際会議や国内研究会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
実験作業は順調に進んでいる。平成24年度に作成した小型平面鏡回転ステージは、回転軸に若干のガタが存在していることが分かり、現在も、原因を究明中である。しかし、この問題は計測には有意な影響は及ぼしておらず、原因究明と平行して測定を開始した。最終納品が2月に遅れたのは、この不具合によって受け入れ仕様を満足せず、原因究明を続行したからである。また、平成23年度に作成したプログラムは正常に動作しているが、予想以上に計算に時間がかかるので、効率化を進めなければならない。
本研究で必要な要素は、(1)平面鏡とその回転機構、(2)波面縫い合わせソフトウェア、(3)被測定物の光学系である。平成24年度までに全ての要素が揃い、実際の実験を開始した。平成25年度も引き続き、実験を継続する。つまり、望遠鏡に対して低精度平面鏡サブアパーチャーの波面縫い合わせ計測を、新しい手法を用いて実施する。この新手法とは、回転シアリングを行う方式で分割瞳データを取得し、回転0度位置と90度位置でのθ方向微小回転データの差分を求めるものである。これらを直交2方向で積分して平面鏡の面形状を再現する。得られた平面鏡の形状を各サブアパーチャーのデータから差し引いた後に、縫い合わせを行う。この方法の有効性は、平成24年度の実験によって、ある程度の評価が済んでいるが、平成25年度はより定量的に詳細な検証を進める。まず、高精度平面鏡を用いた測定結果との比較を行い、どれだけ測定精度が向上したかを定量的に評価する。さまざまな回転角ステップと微小回転角度でのデータセットを取得する。どの回転パラメータが最も安定した結果が得られるかを調べ、新しい波面縫い合わせ法を確立する。平成25年度が最終年になるので、年度末までに全ての成果をまとめて、光学学会誌(Applied Optics誌を予定)で発表する。
実験のための出張費用や、実験データ保存のためのハードディスク購入費、光学学会誌の論文発表のための投稿料、国際会議で発表するための出張費などを研究費として計上する。
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Proceedings of the SPIE
巻: 8442 ページ: 84423T1-6
10.1117/12.926879