研究課題/領域番号 |
23654068
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長尾 透 京都大学, 白眉センター, 准教授 (00508450)
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研究分担者 |
川勝 望 筑波大学, 数理物質科学研究科(系), 助教 (30450183)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 宇宙物理 / 光学赤外線天文学 |
研究概要 |
現在の宇宙において進化最初期にあると考えられる低金属量銀河の性質を調べるため、近傍宇宙における銀河の大規模データベースであるSDSSアーカイブに着目した。50万以上の銀河の可視光スペクトルを含むSDSSアーカイブから215天体の低金属量銀河のデータを抽出し、その化学組成を調べた。その結果、直感的には進化段階に寄らないと考えられるネオンとアルゴンの組成比が、銀河の金属量の関数となっていることが分かった。この傾向を解釈するため、甲南大の冨永望氏による超新星爆発の理論モデルと観測結果を比較し、超新星爆発時における恒星の元素組成の半径依存性を考慮に入れると観測結果が自然と説明できることを突き止めた。この結果は平成23年日本天文学会秋期年会にて発表し、現在論文化を進めている。一方、巨大ブラックホールに起因する活動銀河核現象が銀河進化の初期段階においてどのようなものであったかを検討するにあたり、まずは現在の宇宙における活動銀河核がどのような化学特性を持っているかを調査するところから研究を始めた。活動銀河核の巨大ブラックホール近傍(1光年以内)における化学特性の調査には静止系紫外線スペクトルを解析する必要があるが、一般に紫外線観測は難しいためこのような研究はこれまでほとんど行われていない。しかしPGクェーサーと呼ばれるサンプルについては過去に宇宙望遠鏡によって紫外線分光観測が行われていることに着目し、研究分担者の川勝望氏(筑波大)およびソウル国立大学のJonghak Woo氏との共同研究によって近傍活動銀河核の紫外線スペクトルについて輝線強度比解析を進めた。その結果、遠方宇宙(昔の宇宙)と現在の宇宙では、巨大ブラックホール質量と金属量の間の相関関係が一致しておらず、なんらかの化学進化の効果が寄与していることを見いだした。この解釈の検討と必要なモデル計算を現在進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は現在の宇宙における進化初期段階にある銀河と巨大ブラックホールの理解を目的としているが、銀河および巨大ブラックホールの両方の観点からそれぞれ進化初期段階における化学組成調査を進め、いずれもこれまで知られていなかった新しい知見が初期成果として得られている。また、この研究を進める上で必要な共同研究のネットワークを構築するため、当初から本研究に研究分担者として参画している筑波大学の川勝望氏に加えて甲南大学の冨永望氏およびソウル国立大学のJonghak Woo氏とのやりとりを進めることができている。以上より、本研究の研究初年度の達成度としては順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目にあたる平成24年度は、初年度に得られた初期成果について論文化を進める。このため、ソウル国立大学に渡航して共同研究者との議論を行う。議論を踏まえ、平成24年度内の投稿を目指す。また、近傍宇宙においてまさに進化途上にあると考えられる「塵に覆われた星形成銀河」について、ハーシェル宇宙望遠鏡を用いた遠赤外線分光観測の提案が既に採択されており(34.6時間)、平成24年度の前半に観測データを取得する見込みである(この観測提案はケンブリッジ大学および欧州南天天文台との国際共同研究)。取得した観測データを高い信頼度で解析するためには宇宙望遠鏡データの解析に習熟した研究者との綿密な打合せが必要であるため、このデータ解析を目的としてイギリスまたはドイツに渡航して数週間滞在する。平行して、不足する観測データの追加を目的とした観測提案を国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡や大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter and Submillimeter Array; ALMA)、および欧州南天天文台のVery Large Telescope (VLT)などに提出する。さらに、観測データと比較するための詳細な光電離モデル計算を遂行する必要があるが、今年度のうちに計算を完了させる予定である。研究成果については、査読論文にまとめるだけでなく国内・国外における学術集会において発表を行い、成果の周知に務めると同時に関連分野における最新の状況の情報収集を行う。現時点では、6月中旬にイタリアで行われる銀河金属量に関する国際会議と、8月に北京で行われる国際天文学連合総会において、それぞれ成果発表を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記「今後の研究の推進方策」でも触れた通り、データ解析および解析結果の論文化を目的とした海外渡航を2件予定している(韓国および欧州)。これに加え、国際学術集会における成果発表を目的とした海外渡航を2件予定している(イタリアおよび中国)。これら海外渡航のための旅費が必要であり、平成24年度予算の多くの割合をこの費用に使用する。なお、これらの海外渡航は本研究を推進する上でどうしても不可欠なものであると考えている。一方、取得した観測データの解析および大規模な光電離モデル計算を進める中で計算機用のデータストレージが不足することが見込まれるため、大容量データストレージを購入して研究に支障が出ないよう留意する。
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