研究課題/領域番号 |
23654073
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 康宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (30374911)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / シンチレータ |
研究概要 |
本研究でシンチレーション光の測定に用いる測定系を,光電子増倍管と荷電アナログデジタル変換エレクトロニクスを用いて設定し,コンピュータでデータを取得可能な状態にした.これまで大型のニュートリノ検出器で最も良く用いられているプソイドクメンベースの液体シンチレータに加え,トルエンとキシレンベースの液体シンチレータを作成し,この測定系を用いて,その発光量とエネルギー応答に関して調べた.(トルエン,キシレンは,小規模の液体シンチレータのベースとして一般的に用いられているばかりでなく,プソイドクメンと比較して,工業上の需要が大きいため,ナノ粒子の分散に関して先行研究があるため,候補として選択した.)その結果,これらの液体シンチレータの間に大きな相違は見られなかった.ナノ粒子をトルエンに分散させた例があるため,ナノ粒子を分散させた液体シンチレータの実現を有望視させる結果であった.また,これら3種の液体シンチレータの母材を真空中で蒸留して精製し,その前後での特性の差を見た.その結果,発光量の増加がみられた.これは同時に溶媒中に不純物(おそらくは水分と気体成文)が入っていたことを意味する.更に,ヨウ化ナトリウム結晶シンチレータと光電子増倍管をこの系に追加し,ガンマ線の後方散乱を観測して,発光量とエネルギーの関係をより詳細に測定可能にした.また,液体中に分散したナノ物質は,液中の不純物の影響を受けて,分散状態を変えてしまう恐れがあるため,内部を電解研磨したステンレス容器に,脱着可能な紫外線透過窓を取り付け,容器の洗浄とシンチレーション測定を容易に行うための準備を完了した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
震災の影響で,ナノ粒子の供給が遅れた.肝心のナノ粒子の入手の見込みを立てること困難であった.このため実験計画の立案が遅れた.最終的には,今年度は,研究を進めるための様々な実験系を準備と,それを用いた測定を実施するに止まった.
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今後の研究の推進方策 |
早期にナノ粒子を入手し,作成した液体シンチレータに分散させ,その影響を見る.メーカ技術者と綿密な相談を通じて,分散させるナノ粒子の表面修飾の種類を厳選し,研究の遅れを取り戻す.早い段階で有望なナノ粒子とシンチレータの組み合わせを見つけ出し,系の大型化と長期安定性をみる段階に進みたい.その理由は,ニュートリノ実験は,その事象数が少ないため,最低でも5~10年に亘って,大型(最終的には数100kg以上)の装置が安定に稼働することが必要だからである.大型化については,10L 程度が保存できる,紫外線透過窓付容器を作成して,発光特性を測定する.この系で,液体シンチレータ内の自己吸収と再発光の影響を評価する.また,長期安定性については,恒温槽中で高い温度に保ち,エイジングの効果を加速して試験する.この加速試験には数か月以上の期間が必要であるため,有望な液体シンチレータの発見が早ければ早い程良い.従って,ナノ粒子の分散母体として研究が進んでおり,実績もあるトルエンとキシレンの2つを研究の中心に据える方針である.また,プラスチック樹脂にナノ粒子を導入する実験を並行して行う.アクリルにナノ粒子を分散させた例があるため,アクリルとポリスチレンを混合したMS樹脂シンチレータに焦点を絞って研究を進める.MS樹脂では,アクリルが発光に寄与しないため,ポリスチレン樹脂のシンチレータに比べ,発光量が落ちると考えられる(約10%以上の減が見込まれる).しかし,逆に,発光の減少が予測された程度であるならば,ナノ粒子による影響は小さいと言えるので,このMS樹脂シンチレータの光透過度等の光学的測定(特に光透過度と屈折率測定)を実施する.MS樹脂シンチレータの成功を確認した後,ポリスチレン樹脂シンチレータ,ポリビニルトルエン樹脂シンチレータを試す.
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の「今後の研究の推進方策」で述べたように,今後は(A)液体シンチレータと(B)樹脂シンチレータの双方で研究を進める.先ず,ナノ粒子を分散させた液体シンチレータ(A)を試作する.ナノ粒子が液体シンチレータ中に安定して分散するためには,ナノ粒子の表面修飾がカギとなるため,幾つかの代表的な表面修飾を施した試料を購入する.この材料を用いた液体シンチレータの性能を調べ,その結果を受け,本研究の目的に最も適した表面修飾を考案・試作する.ここで作成した液体シンチレータの内,有望なものは,次のステップである,シンチレータの大型化と長期安定性の2つの要素について研究を進める.シンチレータの大型化が可能かどうかを知るために,自己吸収と再発光の影響を評価するため,大型の容器を新たに作成し,その中に導入する試料を大量に購入して研究する.また,長期安定性を見るために,小型の恒温槽を新規に購入する.樹脂シンチレータ(B)については,ナノ粒子をアクリル中に分散させたメーカに,MS樹脂シンチレータ作成を依頼する.アクリル成分が少ない程,発光量が多く,それだけ性能も向上するので,発光量・分散したナノ粒子の量とその安定度が,アクリル割合とどのような相関を持っているかを見るため,アクリル成分の割合を変えた試料を数種類以上作成する.アクリル割合が重要な要素でない場合は,より発光量の高いシンチレータの可能性を探るべく,ポリビニルトルエン樹脂等のシンチレータの試作と実験を通じて研究を遂行する
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