研究課題/領域番号 |
23654073
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 康宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (30374911)
|
キーワード | ニュートリノ |
研究概要 |
前年度に構築した測定装置系に改良を加え、フラッシュADCを導入し波形情報も観測可能な様に測定系をアップグレードした。このフラッシュADCを用いて、ナノ粒子を溶解した場合にも電子・ガンマ線事象をアルファ線など重粒子の事象を弁別することが可能か否かを調べることを可能にした。しかし、この後、ファームウェアのアップデートに関連した問題が生じており、これに対する対処を行っている。 また、表面状態や粒子径の異なる炭酸カルシウムのナノ粒子を6種類入手し、これらを用いて、ナノ粒子を溶解したシンチレータ試料の作成を行った。特にキシレンを溶媒、PPOを第一発光溶質とするものを中心に研究を行ったのであるが、このシンチレータに溶解するナノ粒子の溶解度について、同一の薬剤であっても、試行の都度溶解度にばらつきが生じた。このバラつきの原因として、試料のロット、溶質・溶媒の純度、溶質の濃度、撹拌容器の洗浄の方法、洗浄レベルなどが関連していると思われるが、その原因について完全には理解されていない。本研究では、ナノ粒子が安定して溶解することが研究のキーポイントであるので、原因究明に向けて、時間をかけて1つ1つの可能性について調べている最中である。 炭酸カルシウムの他のナノ粒子では、酸化ジルコニウムのナノ粒子の入手を試みたが、現在、製品化を中止しているとのことで、これを用いた研究は行うことが出来なかった。 プラスチック樹脂に酸化ジルコニウムを分散させたテスト品が存在するだけに残念であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の遅れの原因はいくつか考えられる。 もっとも大きく影響したのは、東日本大震災でナノ粒子の供給が停止したことにある。この結果、肝心のナノ粒子が入手できないまま時間が経過した。この期間を測定系の構築に充て、ナノ粒子入手後に実験がスムーズに進捗するように備えたが、その測定系でもファームウェアのアップデートに伴うトラブル等、全く想定していなかった事柄もあり、研究の遅れを取り戻すには至っていない。 また、別種のナノ粒子が生産を中止したため、入手不可能となったことも研究が思うように進まない原因であった。 ナノ粒子入手後の実験では、ナノ粒子の溶解度が予想より小さいこと、更には、その溶解度の再現性がないことが判明した。このこと自身は、ある面では、本研究で最もキーとなる部分であるので、時間をかけて1つ1つ可能性を探る必要があった。ナノ粒子の取り扱いでは、通常の化合物と異なった慎重さが求められるので、例えば、実験に使用する溶媒の純度を上げるにしても、純度を上げる方法としてどのような方法が適切であるのか等を詳細に調べる必要があり、限られた予算の中で研究を進めるためには、文献等を調べる時間を多く必要とした。ナノ粒子、溶質、溶媒などの化学薬品だけでなく、実験に使用する容器などに至るまで多くの要素を調べる必要がある。 このように地道に原因を突き止めることは、ナノ粒子を安定して分散させることに他ならず、現在はここに注力している。しかし、ニュートリノ実験に使用する液体シンチレータの開発・研究という側面では,研究の進捗は芳しくないと言わざるを得ない。
|
今後の研究の推進方策 |
フラッシュADCのファームウェアのアップデートに関連した問題をメーカと協力して解決する。これによって、シンチレータの時間変化を測定可能な状態にし、電子・ガンマ線事象をアルファ線など重粒子の事象を弁別することが可能か否かを調べることを可能にする。 シンチレータに溶解するナノ粒子の溶解度にばらつきが生じている問題に関しては、時間がかかるが、本研究の本質に深く関わると思われる点であるので、これまでのように1つ1つ原因を洗い出す作業を継続する。 例えば、シンチレータ溶質であるPPOを入れない場合の溶解度等、あらゆる可能性をシラミ潰しに調べる。 また、これと並行して、今後は、ナノ粒子を分散させたプラスチックシンチレータを作成する。これは本研究を立案した時点で、液体中にナノ粒子がうまく分散しない場合の研究の方向性として持っていたもので、酸化ジルコニウムのナノ粒子をアクリルに分散させた例があるため、これに倣い、炭酸カルシウムを先ず、アクリルに分散させ、ポリスチレンなどを基材とするプラスチックシンチレータを作成する。 このプラスチックシンチレータの発光特性(エネルギーと発光量の関係、発光の時間スペクトルなど)と光学的特性(光透過率と屈折率)を測定する。 アクリルは発光に関与しないため、このプラスチックシンチレータはあまり明るくないと思われるが、アクリルによる減光の度合いとの差を取ることで、分散させたナノ粒子が発光に与える影響を見積もることが出来る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ナノ粒子を分散させた液体シンチレータの研究のために、液体シンチレータの材料となる溶媒と溶質を数種類ずつ購入する。 溶媒としては、プソイドクメンとトルエン、溶質としては、POPOPの高純度のものを入手する。 ナノ粒子を分散させたプラスチックシンチレータを作成する準備段階として、ナノ粒子を分散させたアクリル樹脂の作成を依頼する。 その後、ポリスチレンを基材として、アクリル樹脂を混合した、いわゆるMSプラスチックシンチレータの作成を依頼する。 このMSプラスチックシンチレータでは、ナノ粒子の濃度を3種類用意する。またコントロールサンプルとして、ナノ粒子が入っていないものも用意する。 光透過率測定用に合成石英製のセルを購入する。
|