研究課題/領域番号 |
23654075
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
酒見 泰寛 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (90251602)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | パリティ / アナポールモーメント / 核力 / 弱い相互作用 / 冷却原子 / レーザー冷却 / 磁気光学トラップ / フランシウム |
研究概要 |
原子における空間反転対称性破れ(パリティ非保存効果)の高精度探索を行い、素粒子標準模型の検証を基礎に、原子核媒質中の弱い相互作用の伝搬機構を研究する。今回、原子におけるパリティ非保存効果が質量数の2/3乗に比例して増幅されることに注目し、原子量最大の放射性元素・フランシウム(Fr)を核反応により生成し、さらにレーザー冷却・トラップした大強度偏極Fr原子源を実現して、パリティ非保存効果の高精度測定技術を確立することが本研究の目的である。装置は、Fr生成用表面電離型イオン源、高輝度低速中性原子ビーム、レーザー冷却Frトラップ装置、禁止遷移からの微弱光を測定する高感度光検出器系の4つで構成される。我々は融解型標的を用いた大強度Fr生成用表面電離型イオン源の開発に成功し、毎秒10の6乗個のFrイオンの生成を実現している。今年度は、このFrを急速にレーザー冷却し、トラップする装置(磁気光学トラップ装置:MOT)の開発を重点的に進めた。MOTは、原子と共鳴する波長のレーザー光源、原子をトラップする高真空チェンバー、その上下に配置するアンチヘルムホルツコイルから構成される。本研究では加速器から供給される高温のFrをいったんバッファリングして冷却する1段目のMOT、そしてその予備冷却されたFrをさらに冷却して測定時間を長くするための2段目のMOTを配置する構造とした。2段目のMOTは、パリティ非保存により放出される微弱な光信号を検出するために、原子がトラップされる中心領域に接近して、観測用レンズ光学系を配置する特殊なチェンバー構造とし、可能な限り大きな立体角で放出される光子を検出器へ導入できる光学系の設計を施した。Frと類似の化学的性質を有するRb原子を用いて、この2つのMOT:ダブルMOTのトラップ効率、移送効率、トラップ寿命の測定を行い、測定に必要な性能を有することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的:原子系のパリティ非保存現象探索の高精度測定技術の確立には、放射性元素Frの冷却・トラップ技術と、高感度光検出器の開発が、中核をなす。この2つの技術のうち、前者のFrの予備冷却・輸送・トラップの一連の実験装置を新たに開発し、その性能評価を行って、実験に必要な性能を有することを確認したことは、計画通りの成果であり、順調である。磁気光学トラップ(MOT)の開発には、実験装置に要請される要求から以下の点に関して、十分な性能を有する必要がある。(1)1段目のMOTでは、Frを大量にトラップし予備冷却できること。(2)1段目から2段目のMOTへ、高効率でFr原子集団を輸送できること。(3)2段目のMOTでは、十分冷却されたFrを局在化してトラップすること。(4)微弱な光信号を大立体角でとらえて、かつ、長時間測定して、光検出効率を高くすること。以上の4点が、原子系の高精度パリティ非保存測定の鍵となる。これらの実験条件を実現するために、一段目MOTでは、冷却・トラップ光源のレーザーのビームサイズを大きくし、トラップできる原子集団の捕獲体積を大きくして、大量のFrをバッファリングできることを、Rbを用いて確認した。さらに、光を用いた原子移送技術により、移送中の原子損失はほぼないことを確認し、さらに、2段目のMOTでは、光検出器の設置場所をトラップ領域に接近させることができるチェンバー構造とし、かつ、高真空を維持するよう、差動排気を行うことで、10秒を超えるトラップ寿命を実現した。これらは、測定に十分必要な性能を実現しており、予定通りの進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
震災復旧工事が完了次第、サイクロトロンの運転を行い、Fr生成実験を再開する。そして、1年目に開発を進めたダブルMOTの装置をFrビームライン末端にインストールし、冷却Frのトラップ効率、蓄積個数等を測定し、実際のパリティ非保存測定に必要な収量を実現するよう、実験装置のパラメータ調整を進める。平行して、禁止遷移からの微弱な光信号を検出するための高感度光検出器の開発を進め、この2つを組み合わせてFrのパリティ非保存現象測定技術を確立する。これまで、Frイオン生成、Fr中性化までは、サイクロトロンからの重イオンビームと標的との融合反応により生成されたFrビームを用いて、Fr収量・中性化効率等の評価は進んでいる。今後は、この中性化装置の下流に、MOTを取り付け、トラップ効率を測定しながら、最終的なトラップ原子の個数が最大になるよう、表面電離型イオン源、中性化装置、MOTの動作パラメータを調整する。平行して、APDを用いた光検出器のオフラインテストを進め、データ収集系の整備と、バックグランド光の遮光等の方針がたった段階で、Frビームラインの最終段に設置したダブルMOTシステムに取り付け、まずは、Rbを用いたオフラインテストを行ったあと、段階的に、加速器を用いてオンラインFr生成・輸送・冷却・トラップ・光検出の一連の測定の流れの総合試験を行う。そのあと、実際にFrのパリティ非保存測定のテスト実験を行い、系統誤差の評価を行って、測定技術の確立をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
主に、高感度光検出器の整備と、ダブルMOTのインストールを次年度の予算で進める。高感度光検出器は、APDを検討しており、APDの購入、および、その光出力をデジタル化するADCと、データ収集用計算機の購入に用いる。ダブルMOTのインストールには、バルブ、真空ポンプ導入用チェンバーの整備が必要であり、それらの製作費として、使用する予定である。
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