研究課題/領域番号 |
23654076
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
清水 格 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 助教 (10400227)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 素粒子実験 / 地球科学 |
研究概要 |
カムランド実験における地球内部のウラン・トリウム崩壊起源のニュートリノ測定は、地球の熱収支に対して制限を与えた初の結果として注目を集めた。本研究では、残りの放射化熱の大半を占めるカリウムの寄与を決定するため、カリウム地球ニュートリノ測定用のCdWO4結晶シンチレータ検出器の開発を行う。 カリウム地球ニュートリノ測定では、ウラン・トリウム地球ニュートリノ測定よりも厳しいバックグラウンド削減が要求される。そこで、106Cdの地球ニュートリノ捕獲反応で作られる2つの連続した陽電子に起因する4つの対消滅ガンマ線(511keV)からの特徴的な信号を利用し、4重同時計測を行う。CdWO4結晶シンチレータの発光時定数は、14マイクロ秒であることを実測した。この結果を用いて、1トンサイズの検出器での4重同時計測による検出効率をシミュレーションによって評価する。2つの対消滅ガンマ線を効率的に識別するためには装置を細分化する必要があるが、直径2cm、長さ1mの棒状の結晶を縦横に16セルずつ並べることで、71%の陽電子検出効率が得られることが分かった。一方、同じエネルギーのガンマ線はコンプトン散乱などの影響によって13%程度混入することから、バックグラウンド除去率は5分の1程度となる。この結果から、プロトタイプ検出器で近距離からの原子炉ニュートリノを検出する場合、結晶中に含まれる放射性不純物のウラン・トリウム濃度に対してそれぞれ4 x 10-14 g/g以下、4 x 10-13 g/g以下(現在の不純物濃度の30分の1以下)に抑える必要があることが分かった。カリウム地球ニュートリノの検出の場合、1万分の1以下の削減とより厳しい要求となるが、それでも液体シンチレータで達成されている10-18 g/gに比べると2桁程度緩い要求である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的であるカリウム地球ニュートリノ測定のため、CdWO4結晶シンチレータ検出器の開発を目標としていたが、第一段階である発光特性の測定に基づいて検出器のデザインの最適化を行った。ガンマ線によるバックグラウンドの評価を基に、結晶中の放射性物質に対する削減目標を設定した。順調に開発が進んだ理由として、これまでにも実用的なエックス線・ガンマ線計測に向いたシンチレータとして一般的に用いられてきたCdWO4結晶を発光物質に選んだことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、細分化された検出器の製作に要するコストを踏まえた上で、光学系も含めた検出器のデザインの最適化を行う。1トンサイズの検出器では、縦横に16セルの計256セルごとに光検出器を用意する必要があるが、小型の独立した光電子増倍管や光半導体を多数並べるのは非効率である。そこで、最近浜松ホトニクスなどで開発が進んでいる複数のピクセルが独立に動作するMAPMTやMPPCなどを検討する。さらに、光電面の面積を節約するためのシンチレーション光の集光は、コストを抑える上で非常に重要である。次年度は、光学シミュレーションによる集光の設計を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、光学シミュレーションによる集光の設計を行うため、シミュレーション用のPCや市販ソフトを使用する。設計通りの集光量が得られないことも予想されるので、必要に応じて検出器のデザインを再検討する。シミュレーションには、膨大な計算を要するため、できるだけ演算の速いPCを必要とする。
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