地球内部の熱源の大半を占めるウラン・トリウムの放射化熱の寄与は、カムランド検出器のような反ニュートリノ測定装置によって定量される。しかし、残りの放射化熱を作るカリウムからのニュートリノはエネルギーが低いため、カムランドでの測定は不可能である。本研究では、カリウムのような低エネルギーの反ニュートリノに対しても感度を持つCdWO4結晶シンチレータの開発を行う。 カリウム地球ニュートリノ測定では、ウラン・トリウム地球ニュートリノ測定よりも厳しいバックグラウンド削減が要求される。このため測定器に対して、陽電子に起因する対消滅ガンマ線に起因する特徴的な信号を識別できる性能が求められる。実測によって得られたCdWO4結晶シンチレータの発光時定数を用いて、シミュレーションにより1トンサイズの検出器の性能評価を行った。その結果、直径2cm、長さ1mの棒状の結晶を縦横に16セルずつ並べることで装置を細分化した場合、71%の陽電子検出効率、5分の1程度のバックグラウンド除去率が得られた。この結果から、近距離からの原子炉ニュートリノを検出する場合、結晶中に含まれる放射性不純物のウラン・トリウム濃度に対してそれぞれ4 x 10-14 g/g以下、4 x 10-13 g/g以下(現在の不純物濃度の30分の1以下)が要求されることが分かった。1トンサイズの検出器では、縦横に16セルの計256セルごとに光検出器を用意する必要があるが、コスト面で有利なMPPCを検討した。光学シミュレーションによって、シンチレータの内部全反射の寄与によって一定の集光率が確保できることが示されたが、MPPC前面に集光するためのレンズが複雑な設計になることが予想される。そこでレンズの代わりに、高電圧が印加された光電面とシンチレータを組み合わせたデザインも検討したが、電場を考慮した電子の収集効率の評価が今後の課題である。
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