超高エネルギー宇宙線観測における将来の大規模検出器を見据え、その検出手段となりうる電波を用いた空気シャワー観測手法が注目されている。本手法は昼夜、天候を問わず観測可能で、検出器を安価に制作できる可能性がある。本研究では特に電波エコー法に着目した。これは空気シャワー通過後に生成される電子を電波散乱体として使用し、送信電波の散乱を観測することで空気シャワーを観測する手法である。 本研究では、ユタ州のTelescope Array (TA) 実験が所有する小型の電子線形加速器(Electron Light Source: ELS)から大気中に電子ビームを射出し、これを擬似空気シャワーとして使用することで、観測手法の実証実験を行なった。 平成23年度にはLog-periodicアンテナ、バンドパスフィルタ、30dBアンプ、デジタル受信器を組み合わた25MHz直交検波器を構築し、TA実験サイトにおいて運用試験を行なった。この結果、安定動作すること、ELS起因のノイズやFMラジオによる影響が除去されている事が分かった。 平成24年度にはELSからの電子ビームを用いた電波エコー試験を行なった。この結果、20ns幅の短パルス電子ビーム射出時に信号の検出に成功した。この信号強度は電子ビームの電荷量と強い相関がある。しかし電波停止時にも検出されるため、電波エコーではない。この信号を説明するモデルの一つとして、電子ビーム射出時に急激に変化する電場を計算し、検出した信号波形を再現することを確認した。空気シャワーが地面を通過する際にも同様の電波が発生する事から、本結果は新しい空気シャワー観測手法の礎となる可能性がある。また電波エコー信号は本信号に埋もれて検出できなかったが、本実験で理解した信号特性を元に、この信号の影響を受けない電波エコー検出実験を行なう予定である。
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