研究課題/領域番号 |
23654079
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 晃史 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (10211848)
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キーワード | 双対性 / AdS/CFT対応 / ゲージ理論 / 重力理論 / 結び目 / ホロノミー表現 / 弦理論 / 量子不変量 |
研究概要 |
本研究の目的は、理論の剛性と変形と言う観点から弦理論を特徴づける代数的構造を解明することにあり、ひいてはその表現論を通して非摂動的ダイナミクスを厳密に解析することを目指している。双対性(duality)とは、異なる自由度・作用汎関数・対称性・相互作用等を持った物理系が量子論としては全く等価になることを指し、特にAdS/CFT対応は、d次元のゲージ理論とd+1次元の重力理論が実は同じ理論の二つの側面であるという従来にない大胆な予想である。これらの課題に対し、剛性と変形という視点から切り込むため、Seiberg-Witten理論と3次元双曲構造の変形理論の類似を追究し、特に「ゲージ理論の真空のモジュライ空間」とホロノミー表現の変形空間」と同一視することが有効であることがわかった。この類似については、寺嶋祐二氏、森下昌紀氏らとの議論に負うところが多い。 低次元トポロジーのAJ予想は、結び目補空間のホロノミー表現の変形空間を記述するA-多項式と、colored Jones多項式と呼ばれるChern-Simons理論の分配関数の関係を扱う。より詳しくは、後者が満たすホロノミックなq-差分方程式系のスケーリング極限(特性多様体)として前者が再現されるという予想であり、AdS3・CFT2対応の精密化と見なすことができる。現在、与えられた結び目の量子不変量の計算をq-Weyl代数上の加群のファイバー積分と見なすことで、AJ予想が成り立つ仕組みを考察している。特に、理想単体分割を用いて既約表現の次元Nの差分演算子の期待値が、連続極限においてロンジチュードのホロノミーの固有値に一致することまでは一般に証明できた。さらに結び目に自然に付随するq-Weyl代数加群を skein 加群を用いて構成することを試みている。この加群は平坦ゲージ場のモジュライ空間の自然な量子化と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結び目補空間から q-Weyl 代数が作用する自然な加群を構成することは、結び目図式が与えられれば colored Jones 多項式を多重和として表示する表式が知られているという意味で、いつでも可能である。しかし、q-Weyl 代数上のホロノミー加群のファイバー積分、すなわち和の変数を消去する計算を具体的に実行するためには、消去法や Groebner 基底を用いた計算が必要となる。実際にテストしてみると、比較的簡単な結び目の場合でも計算量が膨大になり、非可換はおろか可換な場合でもメモリーや計算時間が大型の計算機の性能の限界を超えてしまうことが多々生じた。このため、具体例で実験を行いつつ予想を組み立て、これを検証してゆくという当初の目論見が、残念ながら必ずしもうまく行っていない。
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今後の研究の推進方策 |
AJ予想は重力(双曲幾何)とゲージ理論(量子不変量)が互いを規定する様子を極めて精密に記述すると言う意味で、本研究課題にとって非常に重要な問題であり、引き続き研究を続ける。 ただし、非可換消去法による漸化式の導出は計算量的に困難ゆえ見直す必要があるだろう。現在試みている Kauffmann bracket skein 加群を用いる方法は有望であると考えられる。 一方、計画段階ではあまり注目していなかったが、Fomin-Zelevinsky や Fock-Goncharov らにより開発されたCluster 代数という代数系があり、近年になって、これらは dilogarithm 恒等式の証明や写像類群の表現の構成に非常に有効な道具であることがわかってきた。これらの代数構造は、その表示が単体分割の取り方に強く依存するという短所も持つが、その長所を本研究にも役に立てられないか検討する。さらに、refined topological vertex や Macdonald 多項式に関する最近の進展にも注意を払いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は震災の影響や予算スケジュールの未確定部分もあり、当初予定していた出張や物品の購入を手控えたため、予算に余裕が残っている。次年度は、予定通りにパソコン等を購入し、計算環境を整備する予定である。また、幾何学的群論の最近の大きな話題である virtual Haken 予想の解決についても技術的詳細などの情報を収集して、本研究に役立てられそうな部分を考察したいと考えている。
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