研究課題/領域番号 |
23654099
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上原 洋一 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (30184964)
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研究分担者 |
桑原 正史 独立行政法人産業技術総合研究所, 光技術部門, 主任研究員 (60356954)
鈴木 哲 仙台高等専門学校, 情報通信工学科, 教授 (90171230)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | THz / 電子トンネル発光 / STM / 微細領域分光計測 |
研究概要 |
平成23年度の目標は、表面フォノン・ポラリトンを介したTHz領域での走査トンネル顕微鏡(STM)発光の検出実験の開始であった。STMは既存装置を用いる計画であったので、検出器(Siボロメーター)の機種選定を行った。STMの微弱なトンネル電流により励起されるTHz発光は基本的に微弱である。このため、Siボロメーターの仕様決定に際しては製造業者と十分な打合せを行う必要があり、計画に従って平成23年度の前半はこのための検討に充てた。検討の結果、検出器内に集光系を組み込むことが可能であることが判ったので、そのようにした。仕様決定後、直ちに発注を行ったが、納品は平成24年3月になった。納品を待っている間に、STMの整備を行い、検出器を組み込めば実験ができる状態に整備した。 また、計画調書にも記載したように、プリズム結合型のSTM発光取りだし機構の解明は本研究計画において重要である。計画調書の作成段階において利用可能であった解析手法は誘電関数理論のみであったが、この理論においては取り扱いが可能な試料と探針の形状が極めて限定的であり、本研究計画の実施には不十分であった。この欠点を補うために、数値解析手法の一つである有限差分時間領域法(FDTD法)を初めてプリズム結合型STM発光に適用することを試みた。幾つかのモデルケースについて誘電関数理論と有限差分時間領域法による計算を行い、結果を比較した。その結果、有限差分時間領域法においても誘電関数理論と同程度の精度でプリズム結合型STM発光を取り扱い得ることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、年度後半からTHz 領域でのSTM 発光計測を開始する予定であった。しかし、予想以上に検出器の納期がかかり、発光計測は平成24年度当初からの実施にずれ込んだ。しかし、予定している検出の判定方法は極めてシンプルであり(フィルターにより検出予定波長領域以外の光が検出されないようにしておき、トンネル電流を増加させていった際に検出器信号が増加ずるか否かで判断する)、やや遅れている程度であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度前半で、昨年度に積み残した計測を行う。その後、実施計画に沿って、半球型のプリズムによるTHz信号の増強実験を実施する。この場合には、Sb2Te3 薄膜をプリズム底面にスパッターで堆積する。これを試料としてSTM発光計測を行う。プリズムの存在によりどれ位THz光が増強されたかを評価する。実験研究と並行して表面フォノン・ポラリトン発光にプリズムが果たしている役割を明らかにする。表面フォノン・ポラリトンと類似した「表面プラズモン・ポラリトン(SPP、フォノンではなくプラズモンと電磁波との連成波)」からの可視発光におけるプリズムを介しての発光の増強はよく研究・理解されている。計画調書に記載したように、事前の理論計算によれば、表面フォノン・ポラリトンにおいてもSPPと同様に半球型プリズムによる発光の増強が予想される。しかし、発光に関与している表面フォノン・ポラリトンはSPPよりもずっと大きな波数を持ち、半球プリズムが発光過程で果たしている役割は両者で異なる筈である。表面フォノン・ポラリトンの発光を誘電関数理論や有限差分時間領域(FDTD)法で解析することにより半球プリズムが果たす役割を明らかにし、発光効率向上に寄与する機構を明らかにし、高効率光源としての展開を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画予算(直接経費:3,700,000円)の中、約84%は平成23年度に執行した。残りは、光学プリズムと寒剤(液体窒素と液体ヘリウム。検出器に使用)に用いる予定である。
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