研究課題/領域番号 |
23654106
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
江馬 一弘 上智大学, 理工学部, 教授 (40194021)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 超分子 / 蛍光プローブ / ナノ光物性 |
研究概要 |
本研究では、超分子化学と超高速領域の光物性研究を融合させ、シクロデキストリン複合体(CD複合体)という魅力ある分子を、ナノ構造の光物性の舞台に引き出すことを目指す。具体的には、CD複合体が糖と結合したときの発光の振る舞いを光物性の立場から研究し、CD複合体の発光・消光のメカニズムと、光励起キャリアのダイナミクスを解明する。その過程において、CD複合体のナノ構造としての特徴を抽出し、光物性の分野で活躍させる基礎を築く。本研究の成果は、分子識別の分野、および、生体内反応を研究する分野へ多大な貢献を与えるものと予想される。以上を研究目的として,本年度は以下の項目を実施した.1.ボロン酸型蛍光プローブを有したCD複合体の基礎光学スペクトルを測定し、各スペクトルの起源を明らかにした.CD複合体に対して、吸収スペクトル、発光スペクトル、励起スペクトルなどの基礎光学スペクトルの測定を行った。測定はすべて水溶液で行うため、申請者が経験したことのない測定対象であったが、光学測定には特に問題が生じることはなかった。水溶液のpHを変化させた測定、単独の分子溶液の測定などを通して、吸収・発光スペクトルに存在するいくつかのピークの起源をすべて確定した。2.蛍光プローブの構造を系統的に変えたCD複合体の分子設計蛍光プローブのフェニルボロン酸とピレン蛍光団の距離と角度を系統的に変化させたCD複合体を設計する。アルキル鎖の長さを変えることで、フェニルボロン酸とピレン蛍光団の距離を調整することができる。また、ピレンに置換する位置を変えることで、フェニルボロン酸とピレン蛍光団の角度を変えることができる。これにより、光励起したときの遷移の双極子モーメントの向きを制御することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記載した,最初の目標である「ボロン酸型蛍光プローブを有したCD複合体の基礎光学スペクトルを測定し、各スペクトルの起源を明らかにする」という点を完全にクリアした点で,順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,まず,「基礎光学測定および時間分解測定を行い、蛍光プローブの蛍光消失のメカニズムを解明する」という課題に取り組む予定である.様々な距離・角度を有する試料に対して、基礎光学スペクトルおよび時間分解測定を行い、ボロン酸型蛍光プローブが、CDに包接されたときの消光メカニズムを解明する。時間分解測定では、現有のストリークカメラを使ったピコ秒領域での発光時間分解の他に、ポンプ・プローブ法による過渡吸収の測定、カーシャッター法によるフェムト秒時間分解発光測定などを行う。消光や発蛍光は、時間積分した信号に対して使われる言葉であるが、時間分解して時刻0付近を観測すれば、消光と言われている状態でも、発光は必ず存在する。したがって、時刻0付近を詳細に調べる時間分解分光が有効になる。申請者は、そのような測定を元に、無機半導体と有機分子の間のエネルギー移動の測定に成功しているそのような経験を生かして、消光・発蛍光のメカニズムを解明していく。その後は,最終目標である「CD複合体を量子ナノ構造と捉え、様々な形態の試料について光物性を詳細に調べる」という課題に進む予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費のうち大部分は物品費として,光学実験用の消耗品(光学部品,電子部品)および試料作成の材料費に使用する予定である.
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