研究課題
本研究の目的は物質中の電子軌道を実験的に可視化するための方法論と装置の開発を行うことである。方法としては、J-PARCの極端条件下単結晶中性子散乱装置「千手」を立ち上げて実験を行うことと、放射光を使用した精密構造解析から求めるものである。「千手」立ち上げ開始は地震の影響で一年以上遅れて平成24年10月にコミッショニングが終了した。我々は装置立ち上げグループとして参画し調整まで終了している。装置の建設と概要に関しては国際会議での発表に基づくプロシーディングスが刊行された。テスト実験として、標準試料の構造解析までは成功したが、今回の研究目的とする中性子磁気構造解析による本実験を行うところまでは至っていない。ただし、これまでの評価実験の結果は、十分に大きな単結晶を用意すれば本研究の目的は達成できる性能に徐々に近づきつつあることが証明されている。例えば、S=5/2のMnF2の比較的小さな結晶で磁気反射は大きなQまで見えているので、S=1/2のCu系の磁気反射でも大きな結晶を使えば大きなQまでの測定が期待できる段階である。このことは、フーリエ変換してスピン密度を求めたときの分解能が、これまでの測定と比べて格段に向上するであろうと予測できる。従って、方法論開発としてはかなりの進歩が見られた。これらの結果は各種学会にて口頭発表した。一方、放射光施設のフォトンファクトリBL14Aを使用して、X線回折でYTiO3の軌道の観察に成功した。高精度の測定により、Tiのd軌道の電子を差フーリエ法で可視化することに成功した。結果は予想外によく見えており、Tiのdxz,dyz軌道の電子が予想通りの位置に観測されている。この結果は日本物理学会において発表しており、近く論文として公表する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Journal of Physics: Conference Series
巻: 340 ページ: 012040(4)
DOI:10.1088/1742-6596/340/1/012040