本研究では、磁気光学効果を用いて金属端面に蓄積したスピン情報を検出することを試みた。磁気光学効果は光学系の幾何学的な配置から幾つかに分類される。なかでも反射光の偏光を読み出す磁気カー効果(MOKE)は、表面の磁気的な情報に敏感であるばかりでなく、極めて高感度に磁化過程を測定することが可能である。スピンホール効果によって引き起こされるスピン蓄積は、電流密度に比例することから、細線に大電流を流すことで端面に蓄積するスピンを効果的に観測可能となることを期待して、回折格子状の試料を測定することとした。MOKEにおける高次の回折光は、回折格子の形状のみならずスピン密度に関する情報を有しており、原理的には表面に蓄積したスピンの密度分布についても再構成が可能である。 まずθ/2θスキャンが可能なX線回折計を改造し、簡便かつ高感度である偏光変調法をもちいてスピン情報を検出可能な可視光用の光学回折系を作製した。偏光変調に加えて回折格子に印加する電流を交流電流とすることで二重変調法によるロックイン検波を試みた。試料には、大きなスピンホール効果を示すことで知られるPtを材料とする回折格子をリフトオフ法により作製した。Ptのカー回転率は可視光領域では短波長側で最大となることから、高出力の青色レーザーダイオード(λ=405 nm)を光源とし、この波長に合わせて、Pt回折格子を設計した。 現時点では、1次の回折線に関する磁気カー信号は、電流による変化を示さず、スピン蓄積に起因した応答は得られていない。今後、S/Nを改善するためには、印加する交流電流の増大および、レーザーダイオード強度のゆらぎに対する対策を講じる必要があることがわかった。
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