超音波計測法では,LiNbO3や水晶などの単結晶圧電素子を40ミクロンから200ミクロンの厚さに薄く成形し,それを試料表面に接着して超音波の発振と受信に使用する。試料中を伝搬する音速を精密測定することで,物質特有の物理量である弾性定数の温度依存性や磁場依存性を観測できる。本研究ではこれまでの40ミクロンの厚さの単結晶LiNbO3超音波デバイス開発の経験を活かし,機械研磨の限界を超える微細加工技術を駆使し,チップ強度を維持しながら水晶やLiNbO3を局所的に極薄化する逆メサ構造に成形し,量子力学の選択則に必要不可欠な横波超音波をギガヘルツ領域で発振する高周波超音波デバイス開発を目指す挑戦的な課題に取り組んだ。ドライエッチングの手法が確立している水晶を用いて逆メサ構造のデバイス作製を行い,超音波実験に導入することに成功した。厚さは5ミクロンで厚み振動の基本発振周波数は約300MHzだが,試料に接着したときの素子への負荷により,厚み振動よりも低周波発振することが分かった。作成した5ミクロン厚の水晶振動子により3倍高調波を用いることで,1.2GHZでの超音波測定が可能であることを実験的に確認し,カゴ状化合物Ce3Pd20Ge6に適用した。その結果,ラットリングによる周波数分散を観測することに成功し,特性パラメータを決定できた。一方,水晶のエッチングガスによる手法では低温実験に最適な電気機械結合定数が大きい材料であるLiNbO3をほとんどエッチングできないことを確かめた。LiNbO3のドライエッチングによる研削には専用のチャンバーが必要なため,次のステップではLiNbO3専用のエッチング環境を整備することが求められる。
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