研究課題/領域番号 |
23654120
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
中井 祐介 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (90596842)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 一軸性圧力 / 核磁気共鳴 |
研究概要 |
異方的構造をもつ物質が示す新奇物性の解明には、結晶を異方的に歪ませて相互作用を異方的に変える一軸性圧力実験が有用であると期待できる。しかしバルク測定では、一軸性圧力の不均一の影響を大きく受けること、一軸性圧力による相互作用の変化に対する情報も乏しいなど欠点が多い。本研究目的は、圧力不均一の影響を回避することができ、しかも一軸性圧力による異方的相互作用の変化を反映する磁気ゆらぎも測定できる手法である、一軸性圧力下核磁気共鳴(NMR)測定技術を開発することである。申請者は平成23年度7月1日付で所属が首都大学東京に変更になった。それに伴って交付申請時とは測定設備等が異なる状況となったために、平成23年度は一軸性圧力下NMR測定のための整備を主に行った。具体的には、一軸性圧力印加に不可欠である、一軸性圧力加圧器の設計・作製を行った。また、一軸性圧力セル中のNMRコイルを用いたac磁化率測定によって超伝導転移温度の測定を行う装置の構築も行った。他には、NMR測定に用いる超伝導マグネットが横磁場型から、縦磁場型へと変更になったためボア半径の制約が大きくなった。そのため、一軸性圧力セルをさらに小型化する必要があり、現在その設計を行っている。以上のように、本研究に必要な実験環境が整いつつあり、今後はNMR用一軸性圧力セルのテストを目的に、一軸性圧力セルを用いたac磁化率測定によって既知の超伝導転移温度の一軸性圧力依存性を再現するかテスト測定を行う予定である。そののち、NMR用一軸性圧力セルを用いて、NMR信号の観測を試みる。NMR測定によって見つかった圧力セルの問題点を改善し、一軸性圧力下NMR技術の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のように、所属変更に伴い測定環境の整備を行う必要があったため、研究計画通りに進行することはできていない。しかし、計画に記載している、圧力セルを取り付けることのできるNMRプローブの作製を含め、測定環境の整備はほぼ完了している。今後は現在設計中である縦磁場型マグネット用に小型化された一軸性圧力セルを用いて、鉄系超伝導体の一軸性圧力下NMR信号の観測を試み、十分行うことのできなかったNMR用一軸性圧力セルの試作を数多く行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
一軸性圧力下NMR測定環境がほぼ整ったため、今後はNMR用一軸性圧力セルを用いたac磁化率測定によって既知の超伝導転移温度の一軸性圧力依存性を再現するかテスト測定を行う。再現しないようであれば、たとえば圧力値の校正を改善することを目的に、ひずみゲージを皿ばねに固定した圧力校正を試みる。また、一軸性圧力セルを用いて、一軸性圧力下NMR信号の観測を試みる。具体的には鉄系超伝導体BaFe2(As,P)2において信号強度の強いP核のNMRを行う。そのNMR測定の際に明らかとなった問題点を改善したセルの設計・作製を繰り返し行い、NMR用一軸性圧力セルのさらなる改良を試みる予定である。以上の開発が完了したのちには、一軸性圧力下NMR測定を鉄系超伝導体に対して実際に行い、超伝導転移温度および核磁気緩和率の一軸性圧力依存性を明らかにし、鉄系超伝導体の超伝導メカニズムに対して考察を行う計画である。得られた一軸性圧力下での結果を、静水圧力下での結果とも比較することによって、一軸性圧力が物性におよぼす影響を多角的に明らかにすることも行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に十分行うことができなかった、一軸性圧力下NMR測定のテストと、それに伴って得られた一軸性圧力セルの問題点の改善を行うためのNMR測定用一軸性圧力セルの試作を数多く行う。その際、NMR用だけではなく、市販のSQUID装置に組み込んでdc磁化率測定用セルとしても使用できるような汎用性の高い一軸性圧力セルの開発も行いたい。また、一軸性圧力印加をできる限り均一に行うために必要な試料研磨盤の購入など、試料成型環境を充実させることも計画している。以上の測定を行うために欠かせない寒剤費用にも研究費を充てたい。
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