研究課題/領域番号 |
23654121
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
関山 明 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40294160)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 光電子分光 / 偏光 / 線二色性 / 放射光X線 / フェルミオロジー / 強相関電子系 |
研究概要 |
本研究課題では、H23年度はダイアモンド移相子2枚を導入し完全水平/垂直直線偏光高輝度硬X線励起による光電子分光及びフェルミオロジーへの足がかりを得た。また、偏光制御硬X線光電子分光をいくつかの強相関電子系物質に適用し、軌道分解的に電子構造を明らかにすることに成功した。マルチフェロイック系CuFe1-xNixO2は少量(x=0.02)のNi置換で電気伝導度が3桁程度上昇するが、いかなる偏光配置での測定でもフェルミ準位におけるスペクトルカットオフは見られず金属ではないことが分かった。一方でCuFeO2の硬X線励起価電子帯光電子スペクトルは極めて大きな偏光依存性=線二色性を示し、Cu 3d, Fe 3d及びFe 3s, Cu 4s電子構造を同定した。ここでNi置換によって最も顕著に電子構造が変化するのは3d軌道成分ではなくCu 4s軌道成分であり、しかもこれらが最もフェルミ準位近くに分布することが判明した。4s軌道成分はO 2p軌道と強く混成することを考えると、いわばこれらの系は電荷移動型でありNi置換によって少量のキャリアはO 2p軌道及びそれと強く混成した4s軌道に入ることが分かった。Cu 2p内殻光電子分光を測定したところ、Cu価数は1+、つまり3d10電子配置でありCu 3d軌道は閉殻(これは価電子帯光電子スペクトル形状とも矛盾しない)であることから磁性を担うのはFe 3d電子となることを確認した。これらのことからあたかもこの系では電気伝導と磁性が独立したかのように振る舞うことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイアモンド移相子2枚を導入し、並行して偏光制御硬X線励起価電子帯光電子分光測定にも成功しており、本実験手法を新たなフェルミオロジー手法へと展開していく足がかりがH23年度中に得られており、この点で概ね順調に進展しているといえる。また、非球面ミラー導入もH23年度中になされ、H24年度には本研究課題で目的達成の為に必要な偏光制御硬X線励起光電子分光の高分解能測定メドがついたことからもおおむね順調に進展している、と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は導入したダイアモンド移相子による完全水平/垂直直線偏光制御技術を確立し、加えて硬X線用非球面ミラーも導入する。これらにより偏光制御硬X線光電子分光における弱点であった光子密度の減少を克服し、強度の点から困難であった偏光制御光電子分光の高分解能測定が可能になる。これらの実験は高輝度かつ偏光特性に優れたシンクロトロン放射光利用が不可欠であるため、従来より本研究組織が実験遂行しているSPring-8 BL19LXUで引き続き進めて行く。 また、偏光制御硬X線光電子分光の高分解能測定を強相関電子系に対して行い、本実験手法を本当に実用にたる新たなフェルミオロジー手法として展開する。これらの検証の為に、YbCu2Ge2, CeCu2Ge2, LaCu2Ge2の3種類に対して本実験を適用していく。これまでCeCu2Ge2とLaCu2Ge2の価電子状態は両者見分けが困難な程度に相互に類似していたが、それが軌道分解測定をしても同様かどうかを探る。さらには電子・ホールという意味で対照的なYbCu2Ge2に対しても測定を行い、いわゆる電子ホール対称性が電子状態に対して適用できるのかどうかを検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題における重要な実験はシンクロトロン放射光施設SPring-8で行うことから、研究費の一定部分は研究代表者・連携研究者・研究協力者たる研究室大学院生の実験旅費に用いる。また、硬X線制御技術確立のため安価といえる光学部品や光電子分光装置まわりの改善にかかる費用も本研究費で手当する。
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