研究課題
本研究課題では、H24年度は完全水平/垂直直線偏光切替えを目指した偏光度向上を行った。まず従来は垂直直線偏光に変換する際、100%垂直成分の光を得ることは難しく高くても93%程度の垂直偏光成分をもつ硬X線励起光だったものが、エネルギー分解能向上によって97%にまで上昇し、100%により近づいた。さらには集光系を改良し、硬X線光電子分光の際に試料上でのスポットサイズを25µm×25µmと従来よりも1桁小さくすることに成功した。これにより光電子強度も1桁近く増大した。YbCu2Ge2の偏光制御硬X線光電子分光を行い、フェルミ準位近傍の軌道分解別電子構造を解明した。Yb 4f成分はフェルミ準位近くに分布するものの実効的な混成が非常に強いため近藤ピークはフェルミ準位から0.1eV離れた占有側に立ち、フェルミ準位での4f部分状態密度は高くないことが分かった。さらにはこの系は従来言われていたYb2+系ではなく、強く価数揺動した状態にあることが分かった。YbRh2Si2については、主として内殻光電子分光から電子状態を解明した。300 Kにおいてはこの物質のYb価数は2.95+程度と従来他の実験から報告されていた値と矛盾しないものの、温度降下に伴って価数は減少し14 Kにおいては価数が2.9以下となり、発見当初想定されていたYb3+系ではなく明らかにこの系も価数揺動物質であることが判明した。この結果は、より低温で観測されるYbRh2Si2の量子臨界現象が価数ゆらぎに起因していることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
H24年度には本研究課題で目的達成の為に必要な偏光制御硬X線微小集光を達成し、偏光度も上昇した上でいくつかの強相関電子系に対して意味のある実験結果を集積しつつあることからも概ね順調に進展している、と判断できる。
今後は偏光度をより高めると共に、高分解能測定に着手する。本課題期間中にチャンネルカットを回折性能のよい状態に改造できたため、強度と分解能を両立した測定が期待できる。これらの実験は高輝度かつ偏光特性に優れたシンクロトロン放射光利用が不可欠であるため、従来より本研究組織が実験遂行しているSPring-8 BL19LXUで引き続き進めて行く。また、偏光制御硬X線光電子分光の高分解能測定を強相関電子系に対して行い、本実験手法を本当に実用にたる新たなフェルミオロジー手法として展開する。
本研究課題における重要な実験はシンクロトロン放射光施設SPring-8で行うことから、研究費の一定部分は研究代表者・連携研究者・研究協力者たる研究室大学院生の実験旅費に用いる。また、硬X線制御技術確立のため安価といえる光学部品や光電子分光装置まわりの改善にかかる費用も本研究費で手当する。
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