研究課題
H25年度において、本研究課題で当初目標の一つに掲げていた2枚の偏光移相子使用による光電子分光用高輝度硬X線の高効率偏光変換を達成した。昨年度まで1枚の偏光移相子による水平-垂直直線偏光切り替えでは透過率が最大で35%、切替え後の直線偏光度PLは最も良くて-0.94 (-1が最も良い)だったものが2枚使用により透過率50%かつ直線偏光度PL= -0.96を達成した。これにより殆ど多くの偏光制御硬X線光電子スペクトル測定において僅かに残っていた水平直線成分による寄与を差し引く必要がなくなり、より精密な実験が遂行可能になった。以上のような技術開発の後、直線偏光硬X線光電子分光を価電子帯スペクトルのみならず強相関内殻スペクトルにも適用したところ、予想もしない結果を得た。YbCu2Si2は元々電子・磁気状態の異方性の強いことが知られていたが、この単結晶に対してYb 3d内殻光電子分光を行ったところ、終状態多重項分裂で複数のピーク構造が生じるYb3+成分の内殻スペクトルに顕著な線二色性が観測された。これはYb 4fホールの対称性が結晶場分裂によって球対称からズレていることが原因であるが、多重項を全て取り入れた上で結晶場分裂を考慮したイオンモデルによってスペクトル解析を行うことで4fホールの波動関数がかなりの精度で決定できることが判明した。この線二色性は偏光の変化だけではなく光電子放出角度を変えた測定を行うと線二色性が変化し、従来の吸収分光では理論的に不可能だった同じ磁気量子数に属する異なる軌道をも判別できることが分かり、本課題で開発した実験手法が中性子散乱や帯磁率から推測する基底状態対称性決定以上に正確で相補的な新たな手段となることが分かった。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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