研究課題/領域番号 |
23654127
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大隅 寛幸 独立行政法人理化学研究所, 高田構造科学研究室, 専任研究員 (90360825)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 電子密度解析 / 放射線、X線、粒子線 |
研究概要 |
本年度は、四極子散乱が観測できることを実証するために、当初予定の通りシリコン単結晶とマンガン酸化物単結晶の偏光X線回折実験を実施した。入射X線の偏光状態を変化させた際の回折強度の振る舞いを調べた結果、トムソン散乱では説明できない反射が存在することを両試料で確認した。更に、結晶方位角を散乱ベクトル周りに変化させた際の回折強度の振る舞いを詳細に調べたところ、シリコンとマンガン酸化物で振る舞いが異なることが明らかとなった。これらの結果から、マンガン酸化物に関しては想定した通りの四極子散乱を観測していることが、シリコンに関しては動力学的回折の効果を考慮する必要があることが分かってきた。マンガン酸化物で四極子散乱が観測されたことは、価電子のみからの散乱が存在し、これを選択的に計測することにより、内殻電子の多寡によらず価電子密度分布解析に基づいた物性発現機構の究明が原理的に可能であることを意味している。一方、シリコンで観測された現象は、多重散乱と密接に関連していることが予想され、その発現機構の解明は、消衰効果の定量的な取り扱いを可能にし、単結晶構造解析の高精度化に繋がるものと期待される。現在、四極子散乱の定式化を行うために、測定データの質の更なる向上に取り組んでいる。装置に関しても、斜め45度直線偏光度の高速変調およびそれに同期した回折強度の変化を計測するための整備を行ったので、トムソン散乱と四極子散乱の分離計測についても準備が万全となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的に予測された四極子散乱を、マンガン酸化物で実際に観測することに成功した。四極子散乱の完全な理解には至っていないが、シリコンにおいて予想外の偏光依存性を見出すなど新たな知見が確実に増加している。装置の整備も同時並行に進めており、当初の研究計画通りにおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、マンガン酸化物中の価電子の反強的な秩序配列の直接観測の実現に取り組む。四極子散乱の選択的計測法を完成させ、Mnのeg電子が占有している軌道の型の判別に適用する。シリコンの結合電子密度解析に四極子散乱を適用するために、本研究で見出した予想外の偏光依存性の起源の解明に取り組む。その結果、シリコンで四極子散乱を観測することが技術的に難しいことが判明した場合には、動力学的な回折効果の影響を避けるために結晶性の悪い試料に代替して、強的な価電子配列の観測を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
整備を進めている装置に組み込む入射X線強度をモニターするためのフォトダイオードを購入する予定であったが、在庫がなかったため再生産を待って次年度に予算執行することとした。当初の計画通り、フォトダイオードを調達して整備中の装置を完成させ、予定された実験を遂行する。放射光実験のための物品費として30万円を、研究成果発表のための旅費として30万円を計上する。その他に、SPring-8の共同利用ビームラインを使用する可能性を考慮して、それに必要な消耗品費の実費負担分として20万円を計上する。
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