研究課題/領域番号 |
23654132
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 真 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00360610)
|
キーワード | AdS/CFT対応 / 非平衡定常状態 / 有効温度 / 負性過剰雑音 |
研究概要 |
本年度は、前年度までに発見された新奇な非平衡相転移、非平衡臨界点について理解を深めるために、モデルの詳細な解析に着手した。しかし、その解析の途上で、非平衡定常系に特有な有効温度の概念が、AdS/CFT対応の枠内では自然に現れることを見出した。具体的には、AdS/CFT対応を通じて重力理論による非平衡定常系の記述を行うと、一種のブラックホールのホライズンが現れ、そこでのホーキング温度から、非平衡定常系に固有の有効温度が定義される。この有効温度は、非平衡定常系が接している熱浴の温度とは、一般的に異なる値を持つ。 そこで、当初予定を変更し、この有効温度の振る舞いを系統的に調査することにした。その結果、非平衡定常系の有効温度は、平衡状態の温度よりも下がる場合があることを発見した。この結果は一見、直観に反するが、何ら物理法則には反しておらず、既存の物性理論の研究でも、ごくまれな例として、そのような有効温度の振る舞いは知られていた。 さらに、この有効温度は非平衡定常状態まわりの物理量の揺らぎと密接に関連していることを見出した。具体的には、平衡系で成立する揺動散逸関係式が非平衡定常状態に一般化され、その一般化された揺動散逸関係式に現れる温度が、上記の有効温度に厳密に一致することを見出した。また、この一般化された揺動散逸関係式から、有効温度と揺動、すなわち系の雑音の関係を得ることが出来、その結果、系を非平衡にドライブすることで、雑音が減少する場合(負性過剰雑音)があることも見出した。これらの現象は、いずれも、既存の手法ではアプローチが難しい、非線形領域において初めて見られる。 このように、既存の手法では困難な領域においてAdS/CFT対応を用いて非平衡定常系の有効温度と揺らぎを解析し、興味深い多くの例を見出すことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた変更点は生じたものの、これは予想外の成果が得られたためであり、研究上の何等かの不具合による変更ではない。このため、当初予想した以外の学術的成果が得られている。一方で、研究実績の概要で述べた変更点により、当初本年度に遂行する予定であった非平衡相転移の系統的解析は、補助期間を延長し次年度に行うこととなった。これらを総合的に判断し、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度遂行できなかった、新規に発見された非平衡相転移、非平衡臨界点の系統的解析を行うとともに、これらの現象を説明できる現象論的モデルの構成を試みる予定である。例えば、非平衡臨界点における可能な臨界指数を計算し、平衡系におけるスケーリング則との比較を行う。また非平衡定常状態における揺らぎと有効温度についても、より一般化されたモデルで解析を進める予定である。また清水・弓削の和則などの各種関係式の成立の有無についても調べたいと考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では、平成24年度にコンピュータを購入し、非平衡相転移の系統的解析を行う予定であった。しかし、解析準備中に、非平衡定常系の有効温度の特異な振る舞いを発見した。そこで予定を変更し、この有効温度の解析を優先させて、研究成果を学術誌に発表した。このため、系統的解析への使用を予定していたコンピュータの購入を延期した。 次年度使用額は、非平衡相転移の系統的解析に使用するためのコンピュータの購入費用にあてる予定である。
|