研究課題/領域番号 |
23654134
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
桂木 洋光 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (30346853)
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研究分担者 |
本庄 春雄 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (00181545)
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キーワード | 粘弾性体 / 衝突 / 画像解析 / 動力学 / 波動伝播 |
研究概要 |
本年度は寒天ゲルや粘性流体をターゲットとした衝突実験を主に行った.具体的には,昨年度構築した固体球と粘弾性体(もしくは粘性流体)ターゲットの自由落下衝突実験系を用いて系統的にデータを取得し,衝突抵抗力の解析を進めた.得られたデータは衝突抵抗力やフィンガリング不安定性等の解析手法により特徴付けられた.学会・研究会,論文等での研究成果発表も随時行った. 特に寒天ゲルターゲットへの固体球の衝突で,粘性的抵抗成分と弾性的抵抗成分を分離し,それぞれ定量的に評価した.この定量的解析により,ゲルの衝突粘弾性特性解析手法の有効性(と限界)を実験的に示すことには成功した.得られた結果は原著論文としてまとめ,国際誌(Journal of Applied Physics)で出版した. 粘性流体をターゲットとした衝突実験では,衝突の様子を高速度カメラで直接撮影し,衝突時のフィンガリングパターンの形成に特に注目した.ターゲット流体の粘性や衝突慣性の影響により,フィンガリングが発生する条件が一様ではないことが明らかになった.また,既存の液滴衝突の理論的考察と本研究で得られた実験結果を比較した.結果としては,衝突を特徴付ける「衝突レイノルズ数」によるスケーリングが可能であることが分かった.ただし,データの分散が大きく,より細かなスケーリングの起源等を理解するためには,精度向上が必要である. 波動伝播については,当初予定のAEによる衝突の特注付けよりも,ランダム媒質である粉体のゆっくりとした押し込み系における,波動伝播のAE(Acoustic emission)計測の実験系構築等を行った.粉体は粘弾性といより粘塑性媒質と見なされるが,それらの性質に共通部分は多いと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に従い,粘弾性衝突の系統的実験を実施した.得られたデータの解析も定性的には予想されたものが出ており,定量的解析により,いくつかの新たな知見を得ることが出来た.実験・解析結果については,学会・研究会等でも発表を行い,様々な意見を頂くことが出来た.それらの意見を踏まえつつ,結果は既に論文により発表したものもある.成果発表は最終年度(来年度)が主となることを予想していたので,今年度のうちに論文を発表出来たことは多少当初計画よりも早めに成果が上げられていることを意味する.ただし,今年度実験を行った項目が必ずしも全て当初の計画に即した形ではない.当初計画では衝突の応力発光による動的可視化を目指したが,昨年度の予備実験により精度が不十分であることがわかり,応力発光による可視化は断念せざるを得なかった.しかし,衝突体の動力学状態を直接撮影により明らかにし,フォークトモデル(弾性要素と粘性要素を並列に接続したモデル)のような粘弾性を仮定して応力とひずみもしくはひずみ速度との関係を運動学データの偏微分により導出することには成功した.また,粘性流体ターゲットへの衝突とフィンガリング解析は当初予定にはなく,より発展的に実施することが出来たテーマである.一方で,波動伝播については,衝突による高速現象の解明の前に,低速の押し込み状態での解析が必要であることが研究実施の過程で分かり,そちらに集中することになった.これらは当初目的が研究の遂行の段階で適切に修正されたものである.これらのわずかな方向転換を含めて,現研究は現状では,全体にはおおむね順調に進展,もしくは,やや当初目的の計画以上の進展をしていると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度であるため,主にデータの解析と議論,研究成果の発表に集中する予定である.前項で述べたとおり,本研究は当初計画の通り,もしくはやや計画以上の進展をみせている.さらに追加の実験を実施する必要があれば,もちろん実験も行うが,これまで得られたデータの解析を進め,粘弾性衝突の基礎物理を明らかにすることが本年度の最終目標となる.粘弾性衝突の抵抗力物理については,既にフォークトモデル的視点に立ち,解析を進め結果は研究論文として発表を行った.その他の実験項目についても(特に波動伝播実験については),結果をまとめ,学会や研究会等に積極的に参加したいと考えている.波動伝播実験については,粉体への低速押し込みにより発生したAE(Acoustic Emission)信号のイベントサイズ分布に注目し,そのサイズ分布特性の解析を進めたい.波動伝播の様子と減衰の程度等を見積もり,これらの波動がどのような破壊・変形モードと関連するかについて定量的に明らかにすることを目標とする. 本年度は,本研究の最終年度であるため,それぞれの実験項目の解析や物理理解の他に,本研究のまとめとなる「粘弾性衝突の物理」の全体像の構築も検討していきたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
前述の通り,今年度は本研究の最終年度であるため,研究成果の解析,議論,まとめ,発表等に主に研究費を使用する.具体的には,解析PCの購入,議論や発表のための出張等旅費,論文発表の投稿料等に主に研究費を使用する.また,追加の実験等が必要になった場合は必要に応じて,実験部品,消耗品等も購入する予定であるが,解析用PC以外には備品に相当する機器は購入しない計画としている.
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