研究課題/領域番号 |
23654139
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
村上 洋 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究職 (50291092)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フレーリッヒ / 細胞 / マイクロ波 / 非平衡 / 非線形 |
研究概要 |
既存のTHz時間領域分光装置を基礎に数GHz程度の高分解能化を実施した。そのために、500ピコ秒程度まで観測時間幅を拡大する。観測時間幅の拡大に伴う測定時間の増加のため、レーザーの不安定性等に起因する信号の歪みが起こる可能性があり、検討した。試料セルは、そのような信号歪みを小さくするために、参照用と試料用の二つの同じ試料セルを備え、両者を交互に測定するダブルセル方式を採用した。歪みの評価は、同じ液体試料をダブルセルのそれぞれのセルに入れて吸収測定、つまりベースライン測定をする。結果として、2GHz以下の周波数分解能で、50GHz以上の周波数領域では、光学密度で±0.05以下の平坦性が確認され、吸収分光が可能であることが分かった。また、セルの窓の検討を入射電磁波の損失、窓による多重反射による信号歪みに注目し行ったが、マイラーとカプトンが適することが分かった。Webb(Nature(1969))らが蛋白質や水などで観測した100GHz以下の吸収スペクトルの構造の存在を再検討した。逆ミセル溶液を対象にマイクロ波吸収分光を実施した。逆ミセルのサイズ(半径:0.5nm~4nm)を変えて測定を行った結果、バルク状態水から束縛水までのどの状態でもその周波数領域に有意なスペクトル構造は確認できなかった。当初の計画外の実験を行った。本研究課題の主な対象は蛋白質逆ミセルである。蛋白質の構造揺らぎの逆ミセルによるナノ空間拘束効果を検討するための最初のステップとして、色素プローブを逆ミセル内部に導入し、その可視吸収スペクトルの温度変化測定を行い、逆ミセル内部のダイナミクスを調べた。結果は逆ミセルが半径1nm程度以下の時には、内部の水などの拡散的運動が室温ですでに凍結しているという結果を得た。この結果は蛋白質の構造揺らぎにも逆ミセルサイズが影響することを示唆し、今後の本研究に重要な情報を与える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画は、(1)高分解能マイクロ波吸収分光装置の構築、(2)蛋白質水溶液等のマイクロ波吸収測定、であった。研究実績の概要で記したように、研究計画(1)は終了した。(2)に関しては蛋白質試料の測定が残っている。また、上記に述べたように、当初の計画にはなかったが、今後の研究展開に重要な寄与をすると思われる実験を実施し、有用な結果を得た。このことを考慮し、全体スケジュールの8割程度を完了したと評価した。
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今後の研究の推進方策 |
生体高分子の高周波数分解マイクロ波吸収分光を行い、テラヘルツ低周波数領域に共鳴的なスペクトル構造があるかどうかを調べる。そして、フェムト秒レーザーを用いて周波数可変高強度マイクロ波発生装置を構築し、マイクロ波照射下で蛋白質逆ミセルや高濃度蛋白質水溶液などに照射し、系全体にコヒーレントな振動が発生しているかどうかを、高分子の光学スペクトル測定から明らかにする。一方で、生体高分子試料のマイクロ波吸収スペクトルで有意なスペクトル構造が見られない場合、蛋白質の構造揺らぎに起因した反応過程において、マイクロ波照射効果を調べる。反応過程で特異なマイクロ波周波数依存性が見られた場合、熱平衡状態にある蛋白質のマイクロ波吸収測定では見られなかった、振動構造が存在することになる。活性化し易い運動モードの存在を示唆する。そのスペクトル構造が共鳴的であるならば、そのデータを基に周波数可変マイクロ波照射下でその蛋白質系でコヒーレントな振動が発生しているかどうかを調べる。具体的な研究項目は以下の通りである。1.蛋白質水溶液やDNAフィルムなどを対象に高周波数分解マイクロ波吸収分光を行う。水溶液試料測定のために光路長が1mm以下のダブルセルの製作を行う。2.フェムト秒レーザーの時間波形制御技術を使った方法により、波長可変マイクロ波発生装置を構築する。3.マイクロ波照射下での試料状態観測のためにマイクロ波照射光学的分光測定装置を、マイクロ波照射下での蛋白質の生体反応観測のためにマイクロ波照射ポンプ・プローブ時間分解分光装置の開発を行う。そして、それらを、生体高分子試料に適用し、上記の内容を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度にマイクロ波発生装置と分光装置の開発を計画していたために、今年度の研究費を次年度に繰り越した。次年度の研究費の使用計画は以下の通りである。また、平成25年度に消耗品等に使用するための繰り越し額は175(千円)である。1.分光装置開発用光学部品等消耗品(1500(千円)):マイクロ波発生装置及び分光装置開発のための光学部品等の消耗品費がされていたために、マイクロ波照射ポンプ-プローブ時間分解装置の構築を実施するための光学部品などの消耗品に使用する。 2.試料調製用薬品(100(千円)):蛋白質、逆ミセル用界面活性剤分子、有機溶媒、水分計試薬等の購入に使う。3.試料調製用などの実験器具(100(千円)):試料瓶、ピペットなどのガラス器具、純水生成器用フィルター、洗剤等の購入に使う。4.旅費及びその他(150(千円)):学会参加のための旅費、参加費等に支出する。国内学会に3回参加する予定である。
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