昨年度の実施状況報告において述べた予定通り、最終年度はまず磁気光学トラップ中に冷却・捕獲した極低温Rb原子へ480 nmのレーザー光を照射し、極低温Rydberg原子の生成を試みた。トラップチェンバー内に設置した電極へ立ち上がり時間が数マイクロ秒程度のramp voltageを印加することでRydberg原子を準位選択的にイオン化し、マイクロチャンネルプレートでイオン化電子およびイオンを検出することで極低温Rydberg原子の生成に成功したことを確認した。Rydberg状態励起のための波長480nmのシングルモードレーザーシステムの開発が未完成のため、Nd:YAGレーザー励起色素可変パルスレーザーを製作し、これで得られる波長480nmのマルチモードレーザーをRydberg準位励起のために用いた。印加できる電圧には真空チャンバーの電流導入端子の放電しない範囲という制限があるが、これまでのところ主量子数26以上の冷却Rydberg原子のイオン化を確認している。 Rydberg原子を励起した後、準位選択的イオン化を始めるまでの時間を0マイクロ秒から2ミリ秒まで自由自在に変化させることで、冷却Rydberg原子の準位分布の時間変化を観測した。これは冷却原子であるがゆえに遂行可能な実験である。結果、教科書的には黒体輻射によって遷移すると始状態からその周辺の準位にほぼ対称に分布すると考えられているものが、非対称に分布すること、およびその分布の主量子数依存が大きいことを見出した。この結果を近日中に原著論文として投稿予定である。更に、1.光イオン化、2.極低温Rydberg原子からの自発的イオン化、3.極低温Rydberg原子へのマイクロ波照射による極低温プラズマ生成およびRydberg原子の分布を、励起レーザー波長やレーザーパワーを変化させることで系統的に測定した。結果、原子密度による変化が見えており、これは原子間相互作用の大きさの違いによるものと考えられる。
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