研究課題/領域番号 |
23654147
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
笹井 理生 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30178628)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流アメリカ / 遺伝子ネットワーク / ES細胞 / 揺らぎ |
研究概要 |
ES細胞の多能性を維持するためのコア遺伝子のネットワークのモデルを構築した.コアネットワークの存在については様々な実験的証拠があり,そのプロトタイプと言えるネットワークが提唱されていたが,Oct4が低レベルのときOct4はNanogの活動を活性化し,Oct4が高レベルのときNanogを抑制するなどの近年明らかになった重要な実験データを矛盾なく説明するためには,さらにモデルの変更が必要であった. 23年度は,実験データに対応していて,かつできるだけ簡単化された見通しのよいモデルを構築し,このモデルに基づいてGillespieアルゴリズムによる確率シミュレーションを実行した.結果と実験の対比によってモデルに変更を加えるというプロセスを繰り返して,コアネットワークのモデルを構築した.このモデルを用いて確率シミュレーションを行い,Nanog, Oct4, Sox2の揺らぎの大きさと特性を計算した.また,このコアネットワークが多能性を失う過程をシミュレートして,遺伝子の状態,蛋白質およびその複合体の個数を表す変数からなる高次元空間のどのサドルをどのように通過して,多能性のベイスンから分化過程のベイスンへ遷移するか,複数の分化方向からひとつの遷移方向への選択はどのように行われるか,その遷移に際して揺らぎがどのような役割を果たしているかを分析した. また,遺伝子スイッチの揺らぎの理論(Okabe and Sasai, J. Chem. Phys. (2007))を出発点として,ニューヨーク州立大学のJin Wang教授と協力し,コアネットワークの確率シミュレーションの結果から見通しのよい統計量を抽出し,その物理法則を議論するための方法論の展開を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験データと確率シミュレーションの結果を対比することにより、実験と比較可能な遺伝子ネットワークを構築することができた。この成果を足場に、遺伝子の活動パターンの切り替えの機構の分析が進んでおり、計画通りの進捗を示している。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に構築されたコアネットワークモデルを用いて,大規模な確率シミュレーションを行い,とくに多能状態から分化状態へ遷移したあとのネットワークに対してNanog, Oct4などのレベルを人為的に上昇させることで,再び万能状態に戻る過程を考察する.これはiPS細胞作成のプロトタイプとも言える過程であり,細胞死,暴走(ガン化),多能状態への復帰に対応するシステムのベイスン間遷移の機構を分析する. また,23年度に開発された統計力学理論をコアネットワークの振る舞いに適用し,確率シミュレーションの数値結果を分析して,遷移過程の分類,概念化を行い,基本的な物理法則を抽出することを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度にはRA雇用などの人件費の支出を行う予定であったが、該当の学生が博士課程を修了して、次年度に研究員としてこの研究に参加する見込みとなったため、今年度当初の使用計画を変更し、次年度の研究員雇用費として繰り越した予算を使用し、複数年度にまたがる計画として、より効果的な運用をすることとした。
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