研究課題/領域番号 |
23654148
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
柄谷 肇 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (10169659)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 生物発光 / 発光細菌 / 好気的代謝 / 酸化ストレス / 非線形パターン / 離散フーリエ解析 / 遺伝子組換え |
研究概要 |
好気的呼吸と連動して発光する発光細菌は、寒天培地上でコロニーを形成すると酸素刺激に応答してターゲット様発光パターンを示す。23年度の研究において、周期的データ解析の観点から、離散フーリエ変換(以下、DFT)画像解析などに基づいて、酸素刺激条件と動的発光パターンの関係を解析した。 発光細菌として主としてPhotobacterium phosphoreum bmFP(以下、bmFP)を実験に供した。考察の一般化を図ることを目的として発光能を付与した大腸菌を遺伝子組換えにより作製し、実験に供した。具体にはbmFPのルシフェラーゼ遺伝子をクローニングしたプラスミドで大腸菌を形質転換し、生物発光大腸菌の構築を達成した。 実験では主にNaClコンプリートあるいはLB寒天培地上において、単一細胞から成長(17 ~ 25 ℃)したコロニーに対して酸素刺激に対する発光応答を、時間を変数として観測した。成長初期のコロニーの場合、倒立顕微鏡を用いて生物発光画像をCCDカメラで収集した。DFT画像解析の場合、タイムラプス生物発光画像を明度画像に変換してDFT解析を行い、振幅画像および位相画像を得た。 発光パターンのDFT画像解析から、酸素刺激条件において発光リングが現れた領域では、他の領域と比べて局所的に位相がよく一致していること及び強い振幅成分の存在が認められた。即ち明滅する発光パターンの出現は、細胞集団としてのコロニーの発光が酸素刺激によって局所的に同期することを示唆している。このような発光パターンは、顕著なものではないが発光能を付与した大腸菌においても認められた。一連の解析結果に基づいて発光パターンを考察した結果、好気的代謝過程に含まれるなんらかの周期的な過程が同期的な発光と関連すること、また明滅パターンは発光細菌の集団的な酸化ストレス応答と密接に関連するものと示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸素刺激で誘発される相転移的な発光パターンの時間過程を生物発光イメージングと離散フーリエ解析法に基づいて解析し、発光の明滅が集団同期的な現象であることを示した。またパターンの生成消滅について、数理モデルを構築するための基礎的知見を獲得した。 酸素刺激に応じて出現する発光パターンが呼吸活動の集団同期と関連し、且つ細胞集団は同期により活性酸素 毒性に対する緩和システムを構築する、という研究代表者の仮説を実証するための基礎となるデータを得ることができた。 発光細菌の発光関連遺伝子(約7k塩基長)をクローニングしたプラスミドベクターを構築した。さらに同遺伝子で大腸菌を形質転換することによって生物発光大腸菌を構築した。この発光大腸菌は発光基質の生産能をも有するものであり、野性型に匹敵する発光能を発現することを確認した。さらに発光大腸菌コロニーにおいても、酸素刺激に応答して現れる発光パターンの観測を達成した。 上述の一連の実験結果から、研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
発光細菌生物発光関連遺伝子で形質転換した大腸菌の系において、周期データ解析の観点からデータを収集してDFT画像解析等を行い、酸素刺激と明滅パターンの関係を調べる。これと並行して、ホタルの発光遺伝子をクローニングしたプラスミドを用いて発光細菌を形質転換し、バイモード発光細菌を新規に構築する。ホタルの発光遺伝子については、コドンの最適化を行なってからプラスミドへのクローニングに供する。発現の成否はバイモード生物発光を観測することによって確認する。構築したバイモード発光細菌に対して、液体培地において生体エネルギー生産と密接に関わる種々の物質を加えて攪乱を起こし、集団振動の誘導を図る。対象物質として、グルコース、フルクトース6-リン酸(F6P)、ピルビン酸に着目する。攪乱を与えた系において、時間を変数とする発光スペクトル等、発光関連データを収集する。F6Pは解糖系の律速酵素反応の基質であることから特に注目する。細菌由来発光とホタル由来発光はピーク間で約80 nm離れていることから、測定したスペクトルデータから二つの発光を分別して解析に供する。この解析において、例えば解糖系で生産されるNADHの量の増大減少と連動して発光強度の増大と低下が見られるものと予想される。他方、生産されるATPの量の増大減少と連動してホタル由来の発光強度の増大と低下が起こるものと予想される。実験データをDFT等の数値解析法を駆使して解析する。 一方、真核細胞モデルとして出芽酵母を対象として、ミトコンドリアにおいて生物発光能を発現するホタル遺伝子形質転換酵母を構築する。液体培地中の発光酵母に対して、発光色とNADH蛍光の時間変化の関連性を詳しく調べる。 原核単細胞及び真核細胞のエネルギー生産の場であるミトコンドリアにおいて得られた発光データから、対酸化ストレス緩和システム形成メカニズムの構築を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の終盤において、ホタルの発光遺伝子のコドン最適化と最適化遺伝子の合成及び遺伝子のプウラスミドベクターへのクローニングと発現系の構築を検討した。しかしながら合成が外注であり、納品が次年度となることから、目的遺伝子の最適化と合成に関わる経費及びそれと関連する経費約48万円を次年度に繰越した。 平成24年度において、上述の遺伝子の合成(外注、約30万円)、クローニングさらに遺伝子発現系の構築のための試薬、実験器具等消耗品の購入に要する経費として繰越金約48万円を使用する予定である。構築した発現系を用いる同期発光の計測、解析に要する試薬、実験器具等の消耗品購入費用として約35万円を使用する予定である。成果発表論文誌の別釣費として約10万円を使用する予定である。また、研究成果をアメリカ光生物学会(Delta Center-Ville, Montreal, Canada;6月に開催)及び生物物理学会(名古屋大学、愛知県;9月に開催)において発表するため、出張旅費としてそれぞ約5万円及び約40万円を使用する予定である。
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