研究課題/領域番号 |
23654151
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
杉崎 満 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20360042)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 超解像度顕微鏡 / 光合成 / 超高速現象 / エネルギー問題 / ナノテクノロジー |
研究概要 |
光合成は,地球上に降り注ぐ太陽光エネルギーの実に50%を有効利用する,自然が創造した最高の光エネルギー変換機関である.この初期過程を担うのは,光合成膜中に規則正しく配列した5~10ナノメートルのアンテナ色素蛋白超分子複合体という天然のナノデバイスである.本研究では,通常の光学顕微鏡よりも100倍優れた空間分解能を達成する超解像度顕微分光法により,光合成細菌の光合成膜中に配列した色素蛋白複合体間を励起エネルギーが伝搬していく様子の可視化を実現する.更に本研究では,定常状態の超解像度顕微画像計測に加え,超解像度時間分解顕微画像の取得を実現する.その結果,励起エネルギーが複数のLH2間を伝達し,最終的にLH1-RCコア複合体に至る様子を超解像度の動画として取得する.光合成初期過程において光補集アンテナから反応中心への励起エネルギーの流れが「指向性を有するのか,または拡散的なのか?」という根源的な問いに対して回答を与え,高効率励起エネルギー伝達のキーメカニズムを解明することを最終的な目的としている. 以上のような研究目的を達成するために,平成23年度は過渡吸収分光用として構築した現有の自作顕微システムを改造し,カーゲート法により超高速顕微画像の取得を行うための予備実験を行った.試料としては,調製と信号測定の両面において簡便であるレーザー色素を用いた.高濃度の試料を用いた場合には,信号の取得が可能であるという段階にまでは,到達することができた.レンズを多用しているために,得られた時間分解能は200フェムト秒程度であるが,実際に必要とする時間分解能は数ピコ秒程度であることが予想されているので,十分な精度が達成されているものと思われる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究を実施するにあたっては,超解像度顕微鏡の構築と時間分解画像測定装置の構築が必要となる.これらの装置の構築に,それぞれ1年程度かかるものとして研究計画を立てていた.当初の計画においては,超解像度顕微鏡の構築を初年度に行うことを予定していたが,装置の納入時間に関して問題が生じたために,時間分解画像測定装置の構築を初年度に行うこととした.前述のように,高濃度試料に関しては信号の取得を行う段階まで達成することができたが,試料濃度を低くした場合の信号の取得にはまだ至っていない.また,標準試料を用いた測定しか成功していないため,今後は光合成試料を用いた測定も実施していく必要がある.本来ならばこの段階までを1年程度で完了することを予定していたため「やや遅れている」と自己評価をした.しかし,光合成試料の調製は時間がかかるために,標準試料を用いた場合には,「確実に」信号測定ができる用にしておく必要がある. 以上の遅れに関しては,平成24年度に行う超解像度顕微鏡の構築と並行して実験を行っていくことにより,回復が可能であると考えている.また,海外共同研究者との連携をさらに強化することにより,問題の迅速な解決を目指す.なお装置の最適化.および精度の向上が本研究を成功させるために重要な点であり,これは研究計画にあるように,最終年度までにわたって改善を続けていく点として計画の範囲内である.
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今後の研究の推進方策 |
前述のように今後は,前年度に生じた研究の遅れを回復することが必要となる.これと当時に本年度は,超解像度顕微鏡の構築を実現する必要がある.この装置は,これまで構築を行ってきた自作の顕微分光装置を拡張することにより構築する.すなわち,過渡吸収分光顕微鏡の励起部分を利用するとともに,新たに誘導放出光(STED光)を導入し,超解像度顕微鏡へと拡張する.STED光は,空間光変調器を用いて整形した後に,励起光と同軸で顕微鏡に導く.この結果,現有システムの空間分解能を最大2桁向上させるものと期待している.また,本申請を行った際にはガルバノミラー対によりビームをスキャンすることを提案していたが,削減後の予算で実現できるように変更を行う.試料の調製過程を簡略化するために,時間分解画像測定装置を構築した際と同様に,標準試料を用いて装置の最適化を行っていく.その後Rba. sphaeroides 2.4.1やRps. acidophila 10050といった光合成試料へと移行していく予定である.光合成膜中の周辺アンテナLH2とLH1-RCコア複合体の蛍光波長はそれぞれ異なるため,顕微鏡の光軸上にバンドパスフィルターを置き,それぞれの顕微画像を取得した後に画像合成する.その結果,光合成膜中のLH2 とLH1-RCのマッピングが達成する.なお,10 nmの領域にLH2もしくはLH1-RCが1個程度しか存在しないために,観測した発光の強度比から観測点にある複合体を弁別し,実質的な解像度をさらに上げることできるものと期待している.
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次年度の研究費の使用計画 |
直接経費は,超解像度顕微鏡の構築を行うための光学部品(レンズ,手動ステージ,全反射ミラー,バンドパスフィルターなどの消耗品)の購入に充てる.また,試料調製に必要な試薬とガラス機器の購入に充てる. 本年度までの研究によって得られた成果を,学会発表を行う予定である.そのための旅費を計上している.また,学実雑誌に成果を投稿する際に英文校閲を依頼するための予算をその他として計上してある.
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