研究課題/領域番号 |
23654152
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
根間 裕史 中央大学, 理工学部, 助教 (30580055)
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キーワード | 原子・分子物理 / 超精密計測 / 表面・界面物性 |
研究概要 |
本年度は、前年度に作製したシステムを用いて核磁気共鳴(NMR)を試みる計画であった。当初の計画に従い NMR のシグナル探しを行ったが、期待していたシグナルは見られなかった。その原因として、NMR以前に、グラフェンの吸着物質に対する感度不足が否めない。そこで、感度の改善に注力した。 低感度に関しては、これまでの実験で下記のような症状が見られた。(1)グラフェンの電荷中性点の電圧(VCNP)は表面がクリーンな場合 0Vであるが、作製した素子では絶対値が 20 V 前後になることが多い。(2)易動度が低い。(3)ソース・ドレイン間抵抗(Rsd)にゲートヒステリシスが生じる。これらの症状から、当初の想定より多くの汚染物質が吸着してしまっていると推測できる。 こうした汚染物質を除くため、(A)、(B) のような試行錯誤を行った。(A)素子作製のプロセスの変更:これまでの電極加工の前後での水素・アルゴン雰囲気中のアニールを止め、代わりに熱したアセトンでクリーニングをした。これにより、多くの素子で真空中での VCNP が約 0 V を示した。キャリヤをドープする汚染物質を軽減できた。しかし、軽減後の素子の吸着感度を再び酸素ガスで測ったが、大きな感度の向上は見られなかった。 (B) 測定直前のアニール:アセトンでクリーニングした素子を真空セルに搭載後、再度アニールを行った。真空中100度で約半日のアニールを試み、吸着感度が少し向上する素子が出てきた。しかし、ゲートリークで壊れる素子が多かった。次いで、グラフェンに大きめの直流電流を流してアニールを試みた。真空セルを液体窒素に浸して行った。易動度を向上できるようになった。ゲートヒステリシスが改善される素子もあった。しかし、依然として吸着感度は不十分であった。 以上の測定の一部は、応用物理学会、ナノ学会、IUMRS-ICEM2012 で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の本年度の予定は、NMR シグナルを探し出し薄膜で計測することであった。しかし、期待したシグナルが観測されなかったので、やむを得ず計画を変更し、観測されない原因の追及に労力を注いだ。そのため、計画はやや遅れている。 前年度の実験から、グラフェン表面に酸素の分子が吸着することを確認できていた。しかし、吸着の実験を実施している他のグループの結果に比べ、感度が大きく不足していた。それでもNMRシグナルが見えるのではないかと楽観視していたが、今回の結果は芳しくなかった。本研究の最も中核となる目的であるNMR シグナルを観測を達成するには、吸着感度の課題に腰を据えて正面から取り組まないといけないことがわかった。 この課題を解決するため、グラフェン研究で実績のある様々な表面クリーニング法を試した。それぞれの方法の効果を知ることができた。しかし、本研究の試料に決定打となるような方法はなかった。従来のクリーニング方法では除き難い汚染物質が表面に吸着しているとみられる。 グラフェンが見つかって約9年が経過するが、未だに NMR を観測した報告はない。NMR を実現するには表面が極めて清浄であることが要求されるため、困難なのであろう。その困難に、本研究は現在挑んでところである。少なくとも、他グループよりも清浄な試料を必ず得る必要がある。本年度は残念ながら NMR の観測には至らなかった。しかし、今後の進展の礎となる知見が得られているので、ゆっくりではあるが研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予測より、清浄なグラフェン表面を得ることがシビアであること実感している。前年度、考えられる表面クリーニング方法を試したが劇的な効果がなかった。そこで、表面観測により汚染物質の情報をダイレクトに得る試みをする。こうして、NMRを実現するために不可欠な情報をしっかりと収集し、打開策を打つ。 (1)グラフェンに吸着している汚染物質が何か特定する:原子間力顕微鏡や走査型トンネル顕微鏡、近接場顕微鏡等でグラフェン表面観察を行い、どのような物質が表面のどの部位に吸着しているのか汚染物質の情報を取得する。 (2)表面観察の結果から素子の作製工程を見直す:これまで表面の汚染物質をいかに除去するかということにこだわってきた。しかし、発想を変えて、表面をいかに汚さないかに力を注ぐ。(1)の観察で得る情報をもとに、微細加工の工程を見直す。汚染物質を直接観察した結果から導かれる見直しをすることにより、着実に表面の汚染を抑える。 (3)グラファイトを変える:本研究では、グラフェン試料をグラファイトからへき開して基板上に得ている。微細加工の工程での表面汚染ばかりを疑っていたが、そうした工程に入る前のグラファイトの段階ですでに汚染されている可能性が考えられる。これまで、KISHグラファイトを用いてきた。経験的に面積の大きなグラフェンを得られやすいためである。しかし、KISH グラファイトは溶解した鉄と炭素を冷却して得られる。そのため、鉄が汚染物質として混入している恐れがある。今回、KISHグラファイトから高配向性グラファイト(HOPG)に変えたとき、清浄な表面が得られるかを確かめる。 (4)レジストを変える:汚染物質の1つとしてレジストが考えられるので、ZEP520A から PMMA に変えたときの変化を調べてみる。 上述の対策で清浄な表面が得られ吸着感度が十分に向上したら、再度 NMR に挑戦する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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