グラフェン表面に吸着した物質の NMR に挑戦することが本研究の目的である。その足がかりとするため、表面吸着物をグラフェンの電気伝導度の変化による検出を前年度までに行った。しかし、微細加工プロセスで生じる表面に吸着した汚染物質の問題により、十分な検出感度ではなかった。 最終年度である今年度は所属機関が変わったので、新しい環境で本研究の継続を図った。使用できる装置の環境が異なるため、昨年度の推進方策をそのまま実行することはできないと判断し、修正をした。新所属では低温 STM が使用できるので、これを用いて汚染されたグラフェン表面の近接場顕微鏡像を得ることにした。これにより、汚染吸着物がグラフェンの電気伝導に与える影響を、直接観察できる。 観察の際は、グラフェンに微小な電流を通し、これにより生じる微弱な赤外光を近接場顕微鏡でスキャンして撮像する必要がある。この赤外光は微弱なので、顕微鏡にはヒ化ガリウムの二重量子井戸構造を用いた高感度の赤外線検出素子が欠かせない。この素子を作製する微細加工プロセスの立ち上げを行い、テスト素子を作製した。これに加え、作製した検出器の特性を評価するために、低温で赤外光への応答を調べることができる測定系を自作した。また、劈開法で作製したグラフェンと汚染状況を比較するために、市販されているCVDで製膜されたグラフェンを購入しFET構造を作製した。 事業期間全体を通しての進展は、酸素の吸着を電気伝導度の変化から見るに留まってしまった。しかし、NMR に至るために問題点が明らかになった。今後、赤外線検出素子を低温STM に搭載してグラフェン表面の近接場顕微鏡像を取り、汚染物質の影響に関する情報を得たい。これにより、NMRに適したクリーンなグラフェン表面の獲得に繋げる。
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