研究課題/領域番号 |
23654164
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
岩崎 博之 群馬大学, 教育学部, 教授 (70261823)
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キーワード | 積乱雲 / 短時間降水量 / 微細構造 |
研究概要 |
2011年度の研究において,衝突型雨量計を使って10秒毎に観測された積乱雲に伴う強雨には,今までの雨量計では検出できない1-2分周期変動が認められ,これが積乱雲の「微細構造(~1kmスケール)」に対応すると考えられた.しかし,衝突型雨量計は新しいタイプの測器であったため,測器固有のノイズである可能性は否定できなかった. そこで,2012年度の観測では,光学雨量計を防災科研から借り受け,衝突型雨量計との比較観測を行った.光学雨量計は,個々の雨滴の粒径を光学的に測定することで,粒径と数濃度から10秒毎の降水量を推定できる.衝突型雨量計とは全く原理が異なる光学雨量計で測定した10秒雨量でも,積乱雲に伴う強雨には1-2分周期変動が認められ,かつ,その位相は衝突型雨量計で得られたものと一致していた.このことから,雨量の1-2分周期変動は測器によるノイズではなく,実際に存在する変動であることが示された. 一方,10秒毎に観測された雨量と風速の時系列から,1-2分の変動成分をバンドパスフィルターを使って抽出すると,両者に良い対応が認められる場合がある.また,雨量の極大と風速の極大が一致する場合も少なくない.風の変動(乱流)と1-2分周期変動との関連について,2013年度は解析を深める予定である. また,南北に50cm離して設置した2つの衝突型雨量計であっても,10秒雨量の極大は同時に観測されるとは限らないことが分かった.これは雨量の極大に対応する「微細構造」の水平スケールが非常に小さいことを示唆している.2013年度の観測では,強雨時の1秒毎の写真撮影を行うなどの工夫をして,この「微細構造」の実態解明を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2011年度には,衝突型雨量計で得られた10秒降水から,積乱雲に伴う強雨には,1-2分周期変動(約1km)が観測されることを明らかにした.しかし,今まで知られていない現象のため,慎重を期すために,全く別の原理による測器を用いて,この1-2分周期変動が認められるか確認する必要があった. 2012年には,衝突型雨量計と防災科学技術研究所から借り受た光学雨量計との同時観測を行った.光学雨量計は,個々の雨滴粒子の直径と数濃度を測定し,10秒雨量を求めることができる.その結果,原理の異なる2つ雨量計ともに,強雨の1-2分周期変動が認められ,積乱雲の内部に今まで知られていない水平スケール1kmの「微細構造」が存在することを明らかにすることができた. このように,積乱雲の「微細構造」の存在とその特徴を,観測データを基に明らかにしつつあるため,研究は順調に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
課題1: 2012年度の観測では,50cm間隔に設置した3台の衝突型雨量計で同時観測を行ったが,10秒雨量の極大が,3台で同時に観測される確率は約50%であった.つまり,強雨の極大は50cmよりも小さな空間スケールを持っている可能性がある.今年度の観測では,同時観測に用いる衝突雨量計を5台に増やし,強雨の極大の空間スケールに注目した観測を行う. 課題2:積乱雲に伴う強雨の1-2分周期変動を詳しく解析すると,同時に観測された地上風速の短時間変動と相関が高い期間が見られる.強雨の1-2分周期変動の形成メカニズムに風(乱流)が関与している可能性がある.今年度は,強雨と風の短時間変動に注目して,両者に有意な関係があるのか否かを明らかにする. これら2つの課題を遂行し,得られた成果をまとめて,学術雑誌に投稿する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年に関連論文を投稿し,その受理が遅れており,今年度には受理される予定である.次年度使用額の一部は,その投稿代金にあてる. また,今年度も衝突型雨量計による観測を継続するため,その観測費用が必要になる.気象庁webで公開されているレーダーデータやアメダスデータを自動取得し,迅速に解析に移行するために専用のNotePCを購入するつもりである.これらにも次年度使用額を利用する.
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