気候変動をはじめ、大気海洋相互作用を考える上で、海面水温や混合層深度の正確な再現は不可欠である。当初計画は、カナダの測器会社が開発する投棄式乱流計を使用して、荒天時を含む様々な状況下で観測を行い、そのデータ解析から既存の海洋混合層モデルの改良を行う予定であった。ところが、測器開発が大幅に遅れた上、完成した試作品が計画通りに作動しなかったため、荒天時を想定した風応力を海面に与えた時の乱流の発達過程をLarge Eddy Simulation(LES)モデルを用いて数値的に再現し、それを観測結果と等価なものと見なすことで、従来の混合層乱流モデルの検証/改良を行うことにした。 台風通過に伴って励起される近慣性流シアーに加え、風波の砕波、ラングミュア循環、海面熱フラックスを考慮したLES実験を行った結果、従来型の乱流パラメタリゼーション(Mellor-Yamadaモデル)を用いた場合には、乱流エネルギーや乱流長さスケールなどの時間的発達がLESの結果と著しく異なってしまうことがわかった。そこで、大気境界層の時間的発達の再現に成功を収めた方法にならって、この乱流パラメタリゼーションを改良してみたところ(Mellor-Yamada-Nakanishi-Niinoモデル)、乱流エネルギーや乱流長さスケールなどの時間的発達、ひいては、海洋混合層内の水温構造がLESの結果とよく一致するなど、その有効性が明らかになった。 さらに、この乱流パラメタリゼーションを海洋大循環モデルMITgcmに組み込み、現実的な風応力や海面熱フラックスの下でモデルを駆動してみたところ、夏季の台風に対する上層海洋の応答、冬季の海洋混合層の発達と海面水温の低下などが従来よりも精度よく再現されることが確認できた。 以上、グローバルな大気海洋結合現象のみならず、台風強度の予測精度の向上など、実用的課題に対しても「乱流の高精度パラメタリゼーション」というミクロスケールからの貢献の道を切り拓くことができた。
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