研究課題/領域番号 |
23654168
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
又吉 直子 琉球大学, 理学部, 講師 (50295292)
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キーワード | 固体電解質型センサ / 海洋無機炭素量計測 |
研究概要 |
本年度は、前年度に生じた問題、素子作製用LaF3単結晶(固体電解質)の入手が困難となった、ことを解決するため、LaF3単結晶に代わる固体電解質として、耐水性・イオン伝導性にも優れている市販のLiイオン伝導性ガラスセラミックスを使用することにしたので、急ぎ、それを使った素子の作製と溶存CO2 に対する応答特性を調べた。その際、前年度に素子の補助層としてハイドロキシアパタイト(以下HApと略)を使用すると素子の耐水性と素子作製過程の簡便化されるという成果が得られているので、これと同様に補助層を固定化し、Liイオン伝導性ガラスセラミックスの使用に支障がないことを確かめることから始めた。 まず、本素子が水槽や海水中の深度方向へ設置されることを考慮して、Liイオン伝導性ガラスセラミックスを使用した素子の構造を従来の積層型から平面型へ変更した。以前の研究から、素子構造を変えてもセンサ応答はほとんど変わらないことは確認済みである。補助層となるHApの固定化は前年度検討した方法を含めて4方法で行い素子を作製したが、LaF3単結晶を使った場合に比べ、溶存CO2に対する応答はノイズが多くなり応答範囲も小さくなる等、様子が異なっていた。そこで、HAp の溶存CO2との反応についてXRDやIRスペクトルを調べると、HAp中のPO43-又はOH-サイトのいずれかにCO2がCO32-として置換していることがわかったが、これは固体電解質にF-イオン伝導体(LaF3単結晶)を用いた場合とLi+イオン伝導体を用いた場合では、イオン伝導機構に違いが生じる可能性を示し、そのことがセンサ応答に影響したと考えられる。従って、HApを補助層として用いる場合は固体電解質の種類を選ぶ必要があることが示唆され、Liイオン伝導性ガラスセラミックスを素子に用いる場合、補助層としてはHApより炭酸塩を用いる方がよいとわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の当初の計画では、センサ素子に用いる固体電解質として市販のLaF3単結晶を使用する予定であったが、先にも述べたように、その入手が困難(製造中止、特注も不可)であることが前年度わかったので、LaF3単結晶に代わる固体電解質として、以前研究していた固体電解質の中で、耐水性、イオン伝導性にも優れているLiイオン伝導性ガラスセラミックスを今年度から使用することにした。以前の研究ではLiイオン伝導性ガラスセラミックスを合成・成型して使用していたが、これよりも耐水性が期待される市販品があったので、今回は「海水中における使用」ということを考慮し、そちらを用いた素子を本研究で使用することにした。また、前年度の研究成果として得られた耐水性のよいHApを補助層として用いることにしたため、センサ素子作製とその応答特性を再度確認する必要があったので、本年度予定していた実験はあまり進まず、Liイオン伝導性ガラスセラミックスとHApを用いたセンサ素子の溶存CO2に対する応答の検討とHAp を用いた溶存CO2センサの応答機構の検討(「センサ素子形状等の改良」)にとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
固体電解質としてLiイオン伝導性ガラスセラミックスを使用し、今年度の研究結果を踏まえて補助層固定には主に炭酸塩(従来の方法)を用いた平面型のセンサ素子を作製し、以下の実験を行う。なお、補助層の耐水性に問題が生じる場合はHApを用いる事も試みる。 (1) 海洋モデル環境中の各深度について溶存CO2濃度、及びO2濃度変化等に対する応答特性を調べ、基礎データを収集する:海洋モデルの水槽に、センサ素子を大気-水面付近や水面から約0.5 mごとに設置し、各位置における溶存CO2やO2、炭酸イオン等に対する応答を調べ、深さによるセンサ応答への影響を調べる。(2) 海洋モデル環境中の数カ所同時計測、(3) 海洋モデル環境中の大気-水面間同時計測: 海洋モデル水槽で鉛直方向及び大気-水面間同時計測を行う。その際、センサの形状としては、シリコンチューブと耐水テープを使ってセンサ素子を一定間隔につなげて作製する予定である。それを水槽中に沈め、各深度同時に被検物質に対する応答を調べる。(4) 作製したセンサの海洋中の現場計測(海洋鉛直分布の計測、大気-海洋界面の計測): 本センサ素子を使って、実際に被検物質の海洋中及び大気-海洋界面の同時計測を行う(所属研究機関の付属施設である瀬底実験所にて行う予定)。 上記の測定にはいずれも、可能な限り、非分散型赤外線装置や既存の溶存酸素センサ等の機器や酸-アルカリ度の計測も同時に行い、その結果と本センサ素子のデータと比較検討する。 (5) 成果の学会発表及び論文発表
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度が本研究費による研究の最終年度に当たるが、先にも述べたように研究の進度が遅れている。そこで、本溶存CO2センサ素子を使った海洋モデル環境中の各深度、又は各点同時計測における無機炭酸濃度、及び溶存酸素濃度変化に対する応答データの収集量を増やすために、次年度はさらに、1台ずつ海洋モデル水槽とガス供給システムを準備したいので、その水槽とガス供給に必要な流量計等を設備備品費で申請する。本センサ素子の応答との比較検討のために、非分散型赤外線装置や市販の溶存酸素センサ等の機器による測定や酸―アルカリ度の計測も同時に行う予定であるが、この非分散型赤外線装置等は所属研究機関の施設が所有する装置で行うため機器使用料が必要となる。また、当初の予定通りに本センサ素子による現場計測を行うため、海洋中の計測を所属研究機関の付属施設である瀬底実験所にて行うので、その施設使用料も必要である。さらに、得られたデータの処理・解析のための研究補助の依頼を予定している(以上、謝金等申請)。その他、素子の作製に必要なLiイオン伝導性ガラスセラミックスや薬品、ガラス器具、各種ガスなどの購入、及び研究成果発表のため学会発表(旅費)を予定している。
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