研究課題/領域番号 |
23654169
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
羽田 亨 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (30218490)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 衝撃波統計加速 / 非ガウス統計 |
研究概要 |
ベキ型分布に従うランダム変数を生成するルーチンを用いて、レヴィ歩行統計に従う宇宙線の衝撃波統計加速の計算機シミュレーションを行った。粒子運動は、停滞と歩行を交互に繰り返すとし、停滞および歩行のそれぞれの時間スケールをベキ則で与えた。多数の粒子を衝撃波中に置き、これらが衝撃波統計加速される様子を求めた。古典拡散の場合についてフラックスのベキ則、加速時間、宇宙線の空間分布が、対流拡散モデル(宇宙線分布を時間、位置、運動量の関数として捉え、その時間発展を記述する流体モデル)により得られる結論と一致することを確認した。超拡散および亜拡散の場合に対して、上の諸物理パラメータを評価した。超拡散の場合にはより高いエネルギーまで加速が行われ、フラックスは「固い」ものとなるが、衝撃波から遠く離れた地点まで飛翔するため、加速時間は長くなる。亜拡散の場合にはその逆である。ベキ指数および加速時間とレヴィ歩行を指定するパラメータとの関連を議論した。 超拡散する粒子群が持つ熱フラックスが、磁場擾乱と衝突してエネルギーを受け渡すことにより、非線形逆ランダウ過程により磁場擾乱を増幅させる。衝撃波近傍のSLAMSと呼ばれる磁場擾乱に対して、この過程を議論した。 非ガウス的粒子のアンサンブルの記述には、フラクタル微分が本質的に関わることが知られている。ここでフラクタル微分とは、通常の微分の一般化であり、例えば関数の1階微分、2階微分等を一般に p 階微分として、p の値として任意の実数(時として複素数)を考えるものである。超拡散および亜拡散の場合の拡散対流モデルを書き下し、これを数値的に解くための準備を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画では、平成23年度に行う項目として、非ガウス的粒子拡散による宇宙線の衝撃波統計加速のための計算機シミュレーションコードの作成、これを古典拡散に従う宇宙線に対して走らせることにより対流拡散モデルによる結果と照合すること、および非ガウス的粒子拡散を行う宇宙線流体の従う発展方程式の提案を挙げた。平成23年度中に、これらを実際にすべて遂行した。これらに加え、最新の文献の詳読により、フラクタル微分方程式の数値解法についての知識を得た。衝撃波統計加速の計算機シミュレーション結果を、非ガウス的粒子の拡散対流モデル(フラクタル微分方程式)の数値解と比較するための準備が完了した。また、衝撃波統計加速の中心的課題である、磁場擾乱と宇宙線との相互作用に関して、実際に観測される磁場擾乱であるSLAMSを例にとり、粒子散乱、粒子加速、および擾乱の時間発展を議論した。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の予備的計算およびコードチェックに引き続き、非ガウス拡散を特徴づけるさまざまなパラメータ領域にわたって、本格的な計算を行う。超拡散、古典拡散、亜拡散の場合に対し、フラックスのベキ則、加速時間、宇宙線の空間分布等の諸統計量を詳しく評価し、宇宙線のレヴィ歩行を指定する2つのパラメータとの関連を明らかにする。 物理モデルをより現実的なものとするために、以下の拡張を行う。粒子散乱モデルとしてはこれまでの等方散乱モデルだけではなく、これと対照的なピッチ角拡散モデル(粒子散乱が波動との相互作用による散乱であることに基づくモデル)を導入する。また、宇宙線の散乱体であるプラズマ乱流が存在するのは衝撃波近傍に限られていることが期待されるため、散乱に関するパラメータに位置依存性を導入する。 磁場擾乱が宇宙線を散乱および加速する素過程については、これまでに引き続き、大規模磁場擾乱であるSLAMSを題材とした議論を行う。これにより得た結果を、粒子散乱モデルに応用する。 宇宙線分布関数の時間発展を記述する対流拡散方程式を、非ガウス的宇宙線に対して拡張したモデルを数値的に解き、計算機シミュレーション結果と比較する。また拡張モデルに対して長時間発展極限、長距離極限など、様々な極限操作を試み、計算機シミュレーションでは困難な知見を得ることを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
収支状況報告書の次年度使用額を200,000円としているが、これは平成23年度の研究計画に変更が生じた(予定していた出張をとりやめた)ためである。次年度の研究費は、上の繰り越し分を含め、主として調査研究および成果発表旅費(国内および外国旅費)として使用予定である。
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