生物が作る炭酸カルシウム殻の貝殻とサンゴ骨格について希土類元素などの微量元素含有量を測定し見かけの分配係数をもとに分配メカニズムを検討した.サンゴについては飼育実験も行い,天然サンゴの値との比較も行った.また,実験室内での無機的条件での方解石の分配実験を行い,無機的条件と生物が作る炭酸カルシウムの場合との比較検討を行った. 方解石―塩化ナトリウム水溶液間での希土類元素の分配実験いついては,従来より,天然の条件に近いpHや希土類元素濃度条件での分配係数を得ることが出来た.重希土元素が比較的低く,中希土で比較的高い値であった.絶対値は,Tanaka and Kawabe (2006)の値より1桁から2桁低く,また,Terakado and Masuda (1988)より約1桁高かった.中希土類(Sm)で比較的高く弱いパラボラ型を示すものの,希土類元素間の相違は比較的小さいフラットなパターンを示した.このことから分配のメカニズムとして,結晶構造と陽イオンサイトの大きさの効果は小さく,それ以外の要因が効いているものと考えられる.その一つとして,錯体の効果について検討したが,主要錯体存在度との関係は認められず要因は未解明である. 天然の貝殻-海水間,サンゴ-海水間および飼育サンゴ-水槽水間の見かけの分配係数(濃度比)について,貝殻の希土類元素は,方解石型・アラレ石型共に分配係数-イオン半径図において,重希土(Lu)から軽希土(Ce)にかけて上昇し,また,その間の傾きは,Ca-Mg間の傾きと同様であった.天然サンゴの希土類元素は,比較的フラットなパタンであったが,飼育サンゴは,中希土が高いパラボラ型を示した.これらの結果は,希土類元素が,元素分配や生物炭酸カルシウム生成のメカニズム解明に役立つ可能性があることを示唆しているが,更なる研究が必要であることを示している.
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