研究課題/領域番号 |
23654177
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
遠藤 一佳 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80251411)
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研究分担者 |
高尾 敏文 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (10197048)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 化石タンパク質 / 分子古生物学 / アミノ酸配列 / 分子進化 / バイオミネラリゼーション / 分子化石 / 腕足動物 / 硬組織 |
研究概要 |
腕足動物の化石中のタンパク質を解析するには、現生の情報が必須である。そこで今年度は、現生の腕足動物の殻体中のタンパク質を解析することを目標とした。サンプルとしては、神奈川県三崎沖の海底をドレッジすることにより得られた、現生のホウズキチョウチンガイ(Laqueus rubellus)を使用した。 ホウズキチョウチンガイの殻をEDTAでキレートすることにより溶解させ、得られた殻内の有機物を濃縮し、さらに脱塩を行った。それらをSDS-PAGEで展開した。サンプルを展開したゲルを、クーマジーブリリアントブルーやステインズオールで染色したが、シグナルは検出されなかった。これは、サンプルの量が少なかったためと考えられる。そこで、さらに多量のサンプルを得るために、現在、追加のドレッジを完了したところである。 また、殻内タンパク質を直接解析するのと平行して、遺伝子によって殻内タンパク質の構造決定も試みた。ホウズキチョウチンガイの殻内タンパク質・ICP-1のN末端側のアミノ酸の部分配列が、先行研究で報告されている。このアミノ酸配列を参考にして、PCR用の縮重プライマーを作成した。腕足動物においては、殻を形成する器官は外套膜なので、殻内タンパク質も外套膜で作られていると予想される。そこで、外套膜から抽出したRNAからcDNAを合成した。このcDNAを鋳型とし、前述のプライマーを使用してPCRを行った。その結果、複数のシグナルが検出された。現在それらの塩基配列を決定して、ICP-1の構造の決定を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H23年度は、まず現生種の殻体タンパク質のアミノ酸配列の決定に取り組んだ。しかし、アミノ酸配列決定の前のステップ、すなわちゲル電気泳動によるタンパク質の分画、精製のステップにおいてタンパク質のバンドが見えないという問題が生じた。その原因として、もともと殻体中に含まれるタンパク質が少量であることに加え、粗抽出したサンプルの脱塩濃縮のステップにおいてサンプルを失った可能性が考えられる。脱塩濃縮装置として以前使用していた装置が生産中止になったため、今回別メーカーのものを新たに導入した。そのサンプル回収率に問題があるのかもしれない。また、今回研究対象としたホウズキチョウチンガイLaqueus rubellusは、化石としてよく残るので、本研究に適しているが、水深80メートル程度の海底に生息しているため、採集が必ずしも容易ではない。H23年度に採集した標本はすべて実験に投入したが、分量が必ずしも十分ではなかったかもれない。 また、DNAレベルの研究においては、ターゲットの配列をPCRで増幅するのに予想外に時間がかかっている。この理由として、塩基配列の変異が考えられる。先行研究で殻体基質タンパク質ICP-1が解析されたのは、ニュージーランド産の別の上科に属する複数の種であるが、これらの種における配列をもとに設計したプライマー領域の塩基配列が、今回、本研究で使用した日本の種のものと異なっている可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
殻体タンパク質の解析においては、ドレッジによる採集を繰り返すことにより、サンプル量の問題を解決し、アミノ酸部分配列の決定を行う。質量分析計を使用することにより、より少量のサンプルでも解析できることが期待される。そして、現生のサンプルで、殻体タンパク質の構造が決定された後は、化石のタンパク質の解析に入る予定である。いずれの研究においても、外套膜(貝殻を分泌する組織)で発現している遺伝子のデータベースが得られていることが望ましい。そこで、殻体タンパク質の解析と平行して、高速シーケンサーを用いて外套膜で発現している全mRNAの配列の網羅的解析を行う計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
タンパク質の解析(抽出とSDS-PAGE)と遺伝子の解析(PCRと塩基配列決定)は今年度と同様であるが、来年度は、これらに加えて、質量分析計によるタンパク質の解析、および高速シーケンサーによる遺伝子の解析にも研究費を使用する計画である。これらはいずれも既存の設備を使用するため、新規に導入する装置等は必要ない。
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