研究課題/領域番号 |
23654179
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
北里 洋 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋・極限環境生物圏領域, 領域長 (00115445)
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研究分担者 |
窪川 かおる 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任教授 (30240740)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 海生生物 / 化石DNA / 進化 / DNA解析 / Bioinformatics |
研究概要 |
嫌気的な海成堆積物中には化石化したDNA断片がわずかに保存される。深海掘削コア中から採取したDNA抽出物から、海洋プランクトンである珪藻類を中心とした遺伝子断片の塩基配列を解析し、ゲノムレベルでの海洋生物進化を検討することを提案する。本研究を通じて、1)どの時代まで、どの堆積層でDNA 断片が抽出できるか? 2)そのDNA断片の塩基配列からどのレベルの生物情報が獲得できるか? 3)本法で遺伝子レベルの時間を追った進化を解析できるのか? 4)陸上の化石DNAと比較した考察、という海洋生物における堆積物中の化石DNA研究の実例を示し、その可能性を見極める。 本研究は、海生生物の化石DNA解析を行う。平成23年度は以下の試料と手順で研究を進める。1)遺伝子断片の区分と増幅方法の検討: 2)遺伝子の解読: 次世代シーケンサーによる大規模網羅的遺伝子解析法を実施する。 3)遺伝子情報の解析: データはすべて自動でアダプター配列を除去し、既知のゲノム配列およびEST配列との間でBLASTなどの検索をかける。得られた結果はグループ化し、遺伝子特定が可能な状態にもっていくことを試みる。 4)時間を追った遺伝子情報の進化の解析: 3)によって遺伝子の種類や種が特定できたら、異なった時代の同一種について遺伝子情報解析結果を比較し、堆積物からわかる地球環境変化と進化について議論する。 これらのステップのうち、解析結果を決定的に左右する、1)遺伝子解析の折りに起こるコンタミネーション、3)遺伝子ライブラリーの整備の問題について検討を行なった。1)は、当初行なっているところとは異なった実験室での検討を行う事により、また2)は、ちょうど始まった遺伝子支援を最大限活用する事によって解決できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
嫌気的な海成堆積物中には化石化したDNA断片がわずかに保存される。深海掘削コア中から採取したDNA抽出物から、海洋プランクトンである珪藻類を中心とした遺伝子断片の塩基配列を解析し、ゲノムレベルでの海洋生物進化を検討することを提案する。本研究を通じて、1)どの時代まで、どの堆積層でDNA 断片が抽出できるか? 2)そのDNA断片の塩基配列からどのレベルの生物情報が獲得できるか? 3)本法で遺伝子レベルの時間を追った進化を解析できるのか? 4)陸上の化石DNAと比較した考察、という海洋生物における堆積物中の化石DNA研究の実例を示し、その可能性を見極める。 以上の研究のステップのうち、1)は過去50万年前のコア試料まで真核生物の遺伝子断片が含まれている事を確認したが、地球は生物に満ちている事から起こる現在の遺伝子の混入(コンタミネーション)の問題が立ちふさがった。このことは世界中の研究室で問題になっているが、解決策は見つかっていない。慎重に検討を行った結果、複数の実験室でクロスチェックする事により、混入の有無を確かめながら行なうことが現状としてはよいことを確認した。 もう一点は、解析結果を遺伝子ライブラリーと比較する事によって、どの生物のどの部分の情報であるかを検討するステップが問題になった。この問題は、Bioinformatics における根本問題でもある。日本におけるこの分野の急激な発展に伴い、1年経った今、支援システムが整ったことによって、情報検索が確実にできるようになった。 研究の根幹を左右する、これらの問題を検討することに1年を費やしてしまったことが、解析開始が遅れた理由である。しかし、何も解らないまま分析を行ない貴重な試料を無駄にすることがなかったことを考えると、得策であったと総括している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度前半 1)網羅的塩基配列解析のためのDNAの抽出と遺伝子断片の区分解析: 海洋研究開発機構に冷凍保管している各層の堆積物から,市販のDNA抽出キットを用いてDNAを抽出する. DNA断片は高精度のDNA専用電気泳動装置で長さ分布と量を測定し,区分解析を行う.堆積物からのDNA抽出に4カ月以上、区分解析に2カ月を見込んでいる. 2)DNA配列解析: 東京大学オーミクス情報センターとの相談により使用する次世代DNAシーケンサー機器を決める。各層のDNA断片の解読を行う. 30層のすべてのDNAをシーケンサーで読み,遺伝子データベースでの相同性検索を行う。 平成24年度後半3)DNA断片配列をその配列相同性検索結果から,粗くグループ分けした後,相同性検索で,現生生物に相当する生物種を探索する.生物種の暫定的な決定後は,ベイズ法を含む複数の解析法での系統樹の作成,比較検討を行う. 4)堆積層の物理学的,化学的,地質学的データ,DNA解読結果の配列多型をパラメーターとして,これらの多重相関解析を行なう。時間軸を入れ、遺伝子レベルでの進化を考察する。 5)最後にこの研究を通じて、化石DNAの量的,質的変化が堆積物の質的変化とどのように関連するかを考察し、過去数十万年の環境変動と生物多様性の変動および相互の影響について考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に用いる予定の遺伝子解析に関係する費用の大半を繰り越した結果、平成24年度は、遺伝子解析、その支援要員への謝金、ライブラリー検索に、基金の大半を用いることにしている。具体的には、消耗品費、謝金、その他の項目の費用である。 研究成果は、関連学会で公表し、関連研究者と議論する。旅費はそのために用いる。
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