本研究では、深海掘削コア中から採取したDNA 抽出物から、海洋プランクトンである珪藻類を中心とした真核生物遺伝子断片の塩基配列を解析し、ゲノムレベルでの海洋生物進化の検討を提案する。 試料は、2005年に地球深部探査船「ちきゅう」の慣熟航海で採取した掘削コアを使用した。コンタミネーションは、公開されている化石DNAの取扱いに基づき研究を進めることで避けた。堆積物サンプルから市販のDNA抽出キットを用いてDNAを抽出し、-80℃で保存し、一部は液体窒素中に保存した。プライマーは2種類の特異的プライマーをデザインした。PCR産物から得たクローンの配列を読み、数100bp から数1000bp の様々な長さの遺伝子断片を得、長さごとの画分の頻度分布と各サイズクラスごとの遺伝子の特徴化を行った。DNA断片の存在確認は、得られたDNA断片の配列から特異的なプライマーを複数作成し、断片が存在した堆積層および他の堆積層の試料に対してPCRを行った。コントロールとして表層試料を使用した。 抽出したDNA量は最小で0.6ng/ul/mg堆積物乾重であった。微量の核酸泳動装置を使ったDNAは1000~1500bpとそれ以下の長さとなり、後者はゲル電気泳動でスメア状を示した。線虫間の相同性を基にデザインしたSSU-rRNAのプライマーを使ってPCRを実施し、試料の堆積物全体では300個以上の遺伝子断片を得た。DNA長は短いが、BLAST検索にかけた結果、線虫以外の真核生物及びHypothetical geneで登録されている未知遺伝子が検出された。最深部からは得られなかったが、深部でのDNA断片からの生物グループ数は2-4種であった。DNAの分解と消失から残った化石DNAは、その後嫌気的環境下に置かれることで保存されてきた可能性があることを示し、本研究は化石DNAを用いた生物進化研究の可能性を開いた。
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