研究課題/領域番号 |
23654188
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
近藤 忠 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20252223)
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研究分担者 |
境家 達弘 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60452421)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ソーレー拡散 / レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル / マントル鉱物 |
研究概要 |
ソーレー拡散として知られる温度場での拡散現象は主に溶液中で研究が行われていて、固体内での拡散の仕組みや速度などはよく分かっていない。本年度はまず温度勾配場の精密評価のため、レーザー加熱光学系に追加で光ファイバーと分光器を用いた測温システムを設置し、レーザー加熱中の試料からの輻射を用い試料の正確な温度を得るシステムを構築した。 当初、1400K程度より低温側では恒温炉の温度を正しく評価できなかったが、輻射スペクトルの光路吸収補正時に放射率の波長・温度依存性を考慮することにより、1000~ 1400Kの低温域でも高温炉の指示値と10K程度の誤差で測温が可能となった。 この高温試料の両面の温度評価システムを用いて、本年度は天然のかんらん石を用いた温度場拡散実験を行った。粉末試料をダイヤモンドアンビルセル中で7-10GPa程度に加圧し、両面からの近赤外レーザーを用いた加熱を1時間ほど行うことによって1000-2000K程度の試料中の温度勾配を同一位置で維持し、レーザー照射の停止による急冷後、試料を常圧に回収し薄片化して内部の元素拡散を調べた。試料の水平方向の拡散についてSEMを用いた反射電子像観察による定性的な傾向観察と、EDSを用いた高温部から低温部にいたるFe/(Mg+Fe)比を調べることによって試料の不均質を評価した結果、およそ50K/μmの温度勾配で処理した高温部から低温部に至る鉄の分布が大きく変化していることがわかった。これは従来の傾向と一致しているが、これまでの報告にあった相転移などの拡散を促進する影響がない条件でも不均化が生じることがわかった。一方で30K/μm程度の温度勾配では同じ時間の保持でも有意な拡散現象は確認されなかった。また今回はSiの有意な不均化は見られず、固溶関係にある元素間での拡散が最も顕著であることが実験的に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初計画通り、試料中の温度変化を正しく評価することと、技術的に難易度の高い回収試料の薄片観察と化学的不均質を成功させることができた。本年度はマントルの主要鉱物となるかんらん石という特定の鉱物に限って温度場拡散の有無を評価したが、既に多くの地球内部研究としての実験が行われているレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いた高温高圧実験に対して、特に影響の大きいと思われるFeの拡散が単一相試料中でも見られることが分かり、実験の基礎技術上、また、試料の変化に対する解釈の点から大変重要な情報を与えることができたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究では拡散の効果を増大させるため、また実際に行われている高温高圧実験を想定して粉末試料を用いていたが、これ以外に試料本来の体拡散を調べるために粒界拡散を持たない単結晶試料を用いた実験を行う。またこれまでは単一相が安定な条件内での拡散を調べたが、マントル内部などの高温高圧条件に対応して、いくつかの高圧相転移を含む条件内での拡散現象を同様な温度勾配を用いて調べると共に、結晶構造の影響やFe以外の元素の拡散条件を調べるために、玄武岩やパイロライト組成の試料等、更に多成分系の試料を用いた場合の温度場拡散を定量的に評価していく方針である。更にレーザー加熱法の試料構成依存性にも着目し、断熱材やレーザー吸収体の効果を含めて温度場による元素拡散挙動について、圧力依存も含めた総合的な検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
既に必要な備品等は購入済みのために、次年度は主に実験の消耗品となるダイヤモンドアンビルやその台座、また試薬やガスケットなどに大部分の研究費を使用する予定である。また、成果発表のための旅費、及び試料の構造評価のための放射光実験への旅費等にも研究費の一部を使用する予定である。
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