研究課題/領域番号 |
23654191
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋爪 光 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90252577)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 隕石 / 有機物 / 同位体イメージング / 非質量依存同位体効果 / 硫黄同位体 / 酸素同位体 |
研究概要 |
本研究では、地球の表層環境を特徴づける海洋・大気・生命を形成するための基本材料物質の起源を論じる。隕石有機物は、現在我々が手にすることが出来る惑星物質の中で、最も始原的な低温凝縮物である。近年、隕石有機物中から、C,H,O,Nの同位体組成が極端に異常な、ミクロン~サブミクロンサイズの有機物微粒子が続々と発見されつつある。本研究においては、今年度までの大気海洋研究所共同利用の成果として研究代表者らが構築した同位体イメージング分析技術を駆使し、未開拓である、有機物中酸素・硫黄同位体組成の研究を進める。予想される新発見は、太陽系星雲における揮発性物質の誕生・進化の理解に資するだけではなく、地球環境の化学進化など、宇宙化学以外の幅広い研究領域に対しても強いインパクトが期待される。 隕石有機物中の酸素・硫黄同位体組成を中心に全ての有機元素同位体をイメージング分析し、極端に大きな同位体比異常を持つ微小領域の探査を進める。本研究では、まず、硫黄同位体イメージング技術を確立する。 そして、隕石から化学的に抽出した有機物濃縮相中の全有機元素(CHONS)同位体イメージングによる同位体異常を持つ有機微粒子を探査する。現在、大きな酸素同位体組成の異常を示す隕石有機物が既に一例発見されており、その例を手がかりに探査対象を広げながら研究を進める。最終的に、全ての探査結果を組み合わせ、隕石有機物中に見られる酸素・硫黄の非質量依存的な同位体異常の発生メカニズムを解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、これまで全く手がけていなかった、硫黄同位体イメージングを試行した。硫黄には質量数が32, 33, 34 及び36 の4個の安定同位体が存在する。3個以上の安定同位体組成を分析することにより、質量依存同位体分別効果によらない、物質形成素過程に特徴的な同位体効果を検証することが可能になり、有機物が形成する具体的な反応、及び、物質形成が進んだ環境を明らかにすることが出来る。大気海洋研に備わるNanoSIMS50は、質量数28までは1質量数違いの二次イオンを5個まで同時に検出することが出来る。しかし、硫黄の場合、32, 33 及び34の各硫黄イオンが同時検出(マルチコレクション)出来るかどうか明らかではなかったので、本年度はその可能性をまず実際に評価した。結論として、同時検出は難しいことがわかった。今回は、その結果を受け、磁場を少しずつ動かしながら、質量数32, 33 及び 34の硫黄二次イオンイメージを個別に取得するシングルコレクション方式に切り替えた。しかしながら、今回の分析では、標準物質試料のイメージングにおいても局所的に約20% (d34S = -200 ‰)の異常を示す領域が出現するなどの困難に直面した。32Sと34Sをシングルコレクションで取得しても、マルチコレクションしてもこの問題がみられたので、取得方式が問題のようではなかった。この困難は今のところ解決されていない。
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今後の研究の推進方策 |
隕石有機物中の酸素同位体組成を中心に全ての有機元素同位体をNanoSIMSを用いてイメージング分析し、極端に大きな同位体比異常を持つ微小領域の探査を進める。本研究では、既に論文で報告した隕石と同じグループ(CRコンドライト)に属するが、岩石学タイプ(水質変成度・熱変成度)が様々に異なる隕石を調べる。CR1(最も強い水質変成度を持つもの)からCR3(水質変成をほとんど受けていないもの)までの5つのCR隕石をNASAに申請し、現在、本研究での使用を許可されており、配分を受けている。
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次年度の研究費の使用計画 |
ターゲットが「大部分のノーマルな組成を持つ有機物の中に埋没した」特徴的な同位体組成を持つサブミクロンサイズの有機微粒子であり、取り扱い、例えば、ターゲット微粒子の特定、あるいは、複数の分析装置で分析を進める際の対象粒子の場所・領域の正確な再現、などが容易ではない。本研究においては、最初に電子顕微鏡を用いて試料面全体の地図を入念に作る。本研究において、良質な地図の作成・座標の確立は研究全体のパフォーマンスを握る重要な作業である。必要に応じて、10~100ミクロン間隔のグリッドをあらかじめ刻み込んだ試料台等を独自に作成して用いる。本申請課題で計上した研究経費の一部を用い、この専用試料台を試作する。 この他、分析活動、成果発表、及び、同位体イメージング技術の開発動向の調査のための旅費として研究経費を用いる。
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