研究課題/領域番号 |
23655001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武次 徹也 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90280932)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | マトリックス効果 / 希ガスマトリックス / 振動分光 / 非調和効果 / 量子古典混合 / ab initio / モンテカルロ / 希ガス化合物 |
研究概要 |
不安定分子種の分光定数を測定する手段として「希ガスマトリックス単離法」が広く利用されている。この手法では「希ガスの影響は無視できる」と仮定されているが、近年、対象分子種に対して希ガス原子が特異的に結合を形成する例がいくつか報告され、マトリックス単離法による分光データを見直す必要が生じている。希ガス化合物の高精度ab initio電子状態計算に基づく分光定数の決定は数多くなされているが、周囲のマトリックスの影響も考慮した計算報告例はほとんどない。たとえばBeOは希ガス原子と強く結合し、希ガス複合体RgBeOを形成することが報告されている。複合体形成によりBeOの伸縮振動スペクトルは大きくブルーシフトすることが量子化学計算により予測されているが、このシフト量はマトリックス中で観測されるシフト量に対してかなり大きい。本研究では、XeまたはArマトリックス中でのBeOの振動数について希ガス複合体形成と周囲のマトリックス環境が振動数に与える影響を定量的に議論するために、周囲の希ガス原子を古典的に扱った量子古典混合ハミルトニアンを定義し、モンテカルロシミュレーションを行った。BeOはBe側に一つの希ガス原子と特異的に強く結合するため、RgBeOの分子内振動を量子自由度とし、ポテンシャルはCCSD(T)法により求め、量子自由度を含む項については基準座標を用いたPO-DVR法によりマトリックス環境下での振動エネルギー準位を求めた。シミュレーションによりマトリックスの効果を考慮したところ、振動数シフトについて実験結果と良い一致が得られた。本研究により、スペクトルシフトを定量的に見積るためには希ガス複合体形成による効果だけではなく、マトリックス環境による影響も考慮しなければならないことが分かり、BeOの振動分光においてはこの二つの効果が競合することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Ng-BeO を対象とした一連のプログラムが完成し、ab initio計算によるポテンシャル曲面の作成、量子古典混合ハミルトニアンに基づくモンテカルロシミュレーション、振動シュレディンガー方程式を解くことによる基本振動数の見積もりが可能となった。アルゴンマトリックス、キセノンマトリックス中の化合物を想定して計算を実施したところ、実験と対応する結果を得ることができ、論文発表に至った。
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今後の研究の推進方策 |
実験的により興味の持たれるH-Ng-Cl分子系へと適用する。また、金属を含むより複雑な希ガス化合物を適用対象としてプログラムの拡張を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度中に納品したが、支払が次年度以降になったためメモリの支払に使用する。
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