研究課題/領域番号 |
23655008
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
志田 典弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00226127)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 多重水素移動反応 / 化学反応理論 / 量子ダイナミックス / 反応経路 / 反応曲面 |
研究概要 |
本研究課題では、3年間の研究計画で「多重水素移動反応を代表例とした多次元の量子論的動的過程に基づく新しい化学反応理論の構築」を目指す。このうち平成23年度は、主に「1.多重水素移動反応を記述する事ができるポスト反応経路法」の研究を行なった。これには、以下のような段取りで新機軸に基づくオリジナルな反応曲面法と量子論的確率過程の計算法を開発した;反応曲面の定義では、まず反応物、生成物、或いは遷移状態や反応中間体等に対応した分子構造を、化学反応を特徴付ける代表点と仮定する。次に原子の全自由度で定義される配位空間の中から、これらの代表点を全て含む最低次の次元数を持つ部分空間を数学的に取り出し、これを反応曲面と定義する。部分空間の定義には、N個の代表点の中のそれぞれ2点を結ぶNC2個の変位ベクトルで張られる部分空間を用いる。反応曲面上の量子論的確率過程の計算には、まず反応曲面上の運動を表す量子力学的Hamiltonianを定義する。これには既存の反応曲面Hamiltonian法を再定式化する。次にこのようにして定義された反応曲面Hamiltonianの量子力学的な固有解と時間依存の解を求める。以上の研究を、単に方法論だけではなく酢酸-メタノール錯体やギ酸2量体の電子励起状態における2重水素移動反応を具体的な問題の代表例とし研究を進めた。研究の結果、今回開発中の方法が上記の2重水素移動反応に十分有効な方法であることが確認された。また平成23年度は、研究の初年度ということ、またこの研究課題が化学・物理学・数学の境界領域にあることより、それぞれの学問分野における既知の部分と未知の部分の再確認を基本的なところから行い、研究の足場を固めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度は、社会情勢の影響等もあり予算執行可能な時期がやや遅れた。このため「最新の電子計算機の設備を導入し数多くのテスト計算を行いながら研究を進める」という当初の研究計画を多少変更し、研究計画でなかった方法論等も多角的に幅広く検討した。従って研究進度そのものはやや遅れぎみではあるが、内容についてはむしろ深く掘り下げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、今年度に開発した方法を洗練し完成させると共にW. H. Miller等が創始した半古典論に基づく反応速度論を基に、波動関数のフラックス(流れ)の概念を用いた完全な多次元の量子力学版に再定式化する。また生体内水素移動反応のプロートタイプであるアザインドール関連分子や水分子多量体等の水素結合ネットワーク系における多重水素移動反応を対象とし、開発した方法の応用研究を行う。また現在までの達成度でも述べたように、今年度は諸事情により研究計画を多少変更した。そこで次年度は、今年度分も含めて計算機環境の充実に多くの予算を投入し、今年度行うことが出来なかったテスト計算も質量共に数多く行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、本来方法論の開発の他にプログラム開発を含む数多くのテスト計算を行う予定であった。更に次年度は、いろいろな多重水素移動反応についての応用研究も行なう予定である。これらの計算は、莫大な計算機リソースを必要とするので、最新鋭の高性能なワークステーションを設備品として購入する。また電子励起状態等を精度良く取り扱うための最新鋭の分子軌道計算プログラムやソフトウエアを購入する。以上、次年度は研究費の多くを計算機環境の充実に当てる。
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