研究課題/領域番号 |
23655008
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
志田 典弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00226127)
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キーワード | 多重水素移動反応 / 化学反応理論 / 量子ダイナミックス / 反応経路 / 反応曲面 |
研究概要 |
本研究課題では、3年間の研究計画で「多重水素移動反応を代表例とした多次元の量子論的動的過程に基づく新しい化学反応理論の構築」を目指す。このうち平成24年度は、平成23年度につづき「1.多重水素移動反応を記述する事ができるポスト反応経路法」の研究とこれに基づく応用研究を行なった; 多重水素移動反応を記述する事ができるポスト反応経路法には、多次元の反応曲面を用いた方法を開発した。この方法では、まず反応物、生成物、或いは遷移状態や反応中間体等に対応した分子構造を化学反応を特徴付ける代表点と仮定し、次に原子の全自由度で定義される配位空間の中からこれらの代表点を全て含む最低次の次元数を持つ部分空間を数学的に取り出しこれを反応曲面と定義した。部分空間の定義には、N個の代表点の中のそれぞれ2点を結ぶ変位ベクトルで張られる部分空間を用いた。 反応曲面上の量子論的確率過程の計算には、まず反応曲面上の運動を表す量子力学的Hamiltonianを定義した。次にこのようにして定義された反応曲面Hamiltonianの量子力学的な固有解と時間依存の解を求めた。 最後に、以上の方法論を酢酸-メタノール錯体の2重プロトン移動反応の解析に応用した。その結果、この方法がこれまでの方法に比べ非常に有効な方法であることが確認され、より複雑で量子効果が重要な化学反応についてもその有効性が期待される。今後は、更にいろいろな系での応用研究を行いつつ、方法論の完成を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H23年度の研究が予算執行可能時期の関係でやや遅れ気味だったため、その流れで今年度の研究もやや遅れ気味となった。しかし内容的には、深く掘り下げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで研究を進めてきた反応曲面法を完成させるとともに、W. H. Miller等が創始した半古典論に基づく反応速度論を基に、反応曲面法と整合性がとれるように波動関数のフラックス(流れ)の概念を用いた多次元の完全な量子力学版の再定式化を試みる。また水素結合ネットワーク内のより複雑な多重水素移動反応にこれまで開発してきた方法を応用し、方法論全体の更なる洗練と完成を目指す
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の応用計算では、生体内水素移動反応のプロートタイプであるアザインドール関連分子や水分子多量体等の水素結合ネットワーク系における多重水素移動反応を取り扱う。これらの系は、単に本研究の方法論におけるプロートタイプであるだけではなく、生物関連科学の重要な知見となる。そこでこれらの応用計算では、精度的にも充分に信頼のおける計算を目指す。それにはこれまで以上に計算設備(ワークステーション)や電子状態計算のためのプログラム群を充実させる必要がある。従って研究費の多くをこの購入費用にあてる。
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