分子の吸着および解離過程のその場観察は、触媒反応機構を理解する上で重要である。本研究では、金属酸化物表面における分子吸着サイトの空間分布を調べるため、カテコール修飾BODIPY色素(CA-BODIPY)を用いた単一分子蛍光観察を行った。CA-BODIPYは通常無蛍光性であるが、二酸化チタン表面への吸着によってカテコール部位の電子状態が変化し、分子内電子移動による蛍光消光が抑制されることで強い蛍光を発するようになる。したがって、吸着したCA-BODIPYの単一分子蛍光を空間解析することで、分子吸着サイトを光の回折限界を超える空間分解能で決定することができる。水溶液中、マイクロメートルサイズのアナターゼ結晶上で観測された蛍光輝点位置を解析した結果、{001}面や{100}面と比べ、{101}面でより多くの吸着サイトが存在していることがわかった。この結果は、表面エネルギーの高い{001}面では水分子が解離的に吸着するのに対し、{101}面では水分子が分子的に吸着するためCA-BODIPYが化学吸着しやすいことに起因していると解釈された。また、分子吸着における結晶サイズの影響を調べるため、バルク結晶、マイクロ結晶、ナノ結晶における分子吸着挙動をCA-BODIPYを用いて調べた。二酸化チタンナノロッドにおいて観測された吸着サイトの空間分布は、マイクロ結晶と異なり、{101}面と{100}面で吸着サイト数に有意な差はみられなかった。これは、熱力学的に安定な結晶面固有の表面構造より、むしろ酸素空隙のような格子欠陥が分子吸着に重要な役割を果たしていることを示唆している。また、生細胞中における発光性ナノ粒子の単一粒子蛍光イメージングや反応活性種の蛍光イメージングを行った。本研究課題とも密接に関係するナノスケールの界面反応に関する単一分子研究を行い、学術論文として発表した。
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