研究概要 |
希土類単分子磁石の透明基板上への自己組織化単分子膜の形成法について検討を行った。これまでにテトラフェニルポルフィリンを配位子としてもつ単分子磁石がガラス基板上で自己組織的に単分子膜を形成する現象を見出した。これにより磁気円二色性分光法(MCD法)を用いた単分子膜の磁気研究を可能にした。 高希釈条件下でMCD分光を行うために、透明ポリマー中にドープした試料の作成を検討した。ポリマーマトリクスと単分子磁石の組み合わせを探索し、フタロシアニン型単分子磁石における最適な条件を見出した。特にアニオン型フタロシアニン二層型単分子磁石のポリマードープに困難が伴ったが、還元剤の存在下でPMMAにドープすることで単分子磁石の酸化が防げることが分かった。 希土類単分子磁石の配位子(π,π*)励起状態で観測されるMCDスペクトルの温度依存性(100K~1.5K)および磁場依存性を測定した。f電子をもたないY錯体では温度変化が観測されなかったのに対し、(4f)8電子系を持ち単分子磁石挙動を示すTb錯体では、低温になるになるに従いMCD強度が大きくなる現象が観測された。また、一定温度でMCD強度-磁場プロットにおいて、ヒステリシスが観測された。 これらの現象の観測により、配位子(π,π*)励起状態とTb3+イオンの4f電子の間に強磁性的相互作用が存在していることを世界で初めて示した。これは「光」と「単分子磁石」が関与する概念的に新しい現象で、理学的に極めて興味深い。現段階では、この相互作用の本質的理解には至っていないが、同構造を持つ他の希土類錯体に研究を広げることで新しい研究分野を開拓することができると期待できる。
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