研究概要 |
振動SFGの非線形感受率のキラル項は,非キラル項の2桁から3桁小さい.このため,キラル信号の信頼性の高い定量的な検出が困難であった.この実験上の困難が,キラル振動SFG分光の応用と基礎理論の解明・確立の障害となっており,測定の容易化と精度向上が望まれている.この問題を克服する一つの方法として,位相差を自由に設定することができる液晶可変位相差板を用いた新しいキラルSFGの測定方法を提案し測定システムを試作し,キラルポルフィリン会合体薄膜に適用して適用しその有効性を検討した. 検出SFG信号はP偏光,赤外プローブはP偏光,可視プローブは可変位相差板によって変調,という組み合わせで装置を構築した.可視プローブの偏光変調は,可変位相差板の軸の一方をプローブ入射面内となるように配置し,位相差板へ入射する可視プローブは偏光面が入射面から45度傾いた直線偏光とした. 赤外振動数1300~1050 cm-1の範囲について,位相差板が付加する位相差φは-0.36π~1.25πの範囲で変化させて振動SFGスペクトルの測定を行った.この波数領域にあるポルフィリン会合体膜試料の比較的強度の大きい4つの振動バンド(1250, 1230, 1130, 1090 cm-1)について,ピークの波数における信号強度を位相差の関数として測定した.SFG信号強度が位相差に対して余弦関数的に変調した結果が得られ,予想される変調が観測されている.また添加する酒石酸をD体からL体にするとその符号がおおよそ反転しており,膜のキラリティを反映した正しい測定が実行できていることが確認できた.
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