キラル結晶を作るアキラルな有機化合物(芳香族化合物,ジアリル誘導体,多鑑識芳香族化合物,ヘテロ間化合物,キノン類など)を含む溶媒に,種々の基板を浸漬し,溶媒を徐々に蒸発させていく過程での基板上への有機物結晶の堆積のようすを観察し,基板の結晶方位と有機物結晶の結晶方位に一定の相関があるかを調べた.その結果,基板の結晶方位と有機結晶の結晶方位に相関がみられる系がいくつか見つかった.この際,室温程度かそれ以下の温度で溶液から比較的すみやかに析出することができる化合物が後段の実験において好都合なので,その点に留意し候補化合物を探索した.基板材料はテラヘルツ波透過性からおのずとSi結晶やGe結晶などに絞られる.表面の面方位を変えることにより有機化合物が堆積する様態が異なると予想し,低指数面{1 0 0},{1 1 0},{1 1 1}基板やこれらから数°傾いた高指数面方位の基板を用いた. 次に,これらの系に対して,偏光テラヘルツ照射化での再結晶観察を行った.光源はタンネットダイオードである.タンネットダイオードが発振するテラヘルツ波は単波長・コヒーレント・CW波である.テラヘルツ波を透過する容器の内面に基板を貼付し,溶媒を満たした状態で偏光テラヘルツ波を連続照射した.この際,パラメータは,有機化合物と溶媒と基板の組み合わせの他に,テラヘルツ波の波長,集光,偏光と基板方位との相対角度(回転とあおり),溶媒の蒸発速度など多岐にわたる. 結果として未だにテラヘルツ波の偏光方向と基板との相対角度によって結晶のキラリティを制御できるところに至っていない.本助成で実験に必要なハードウエアは構築できたので,今後も研究を継続し,キラリティ制御を実現する.
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