分子集積構造は、完全な秩序をもつ結晶からほとんど無秩序なアモルファスまで多様であるが、それらの性質(物性)はその微視的構造に強く依存する。このため、分子集積構造の理論的予測を実現することが望まれるが、自由度が大きく、分子間相互作用が微妙であり、探索に莫大な時間を要するため、非常に困難な課題となっている。本研究では、種々の新しいグローバル最適化アルゴリズムを提案し検討を進めることにより、効率的な分子集積構造の自動探索法の開発を目指した。 まず、分子骨格を固定して並進と配向を、ヘシアンの固有ベクトルを用いるように一般化した超球面探索法で最適化することを試みた。分子の集積に伴って分子骨格がほとんど変化しない場合には変数の数を大幅に減らすことができるため飛躍的な探索効率の向上を与える一方、分子骨格の微妙な変化があるとさらに分子骨格構造の緩和過程の最適化を要するため十分な効率化が得られない場合があることがわかった。 次に、分子骨格構造の微妙な変化を最初から許容しつつ、大きな分子骨格変化は起こさないよう拘束するペナルティ関数を用いる方法を検討した。この方法は、ペナルティ関数をうまく設計できれば効率的な分子集積構造探索の手法となることがわかったが、どのようなペナルティ関数を導入すべきかについては検討の余地が残された。 さらに、代表者が開発した超球面探索法を応用して探索を進める際に、分子骨格中の結合が維持された構造のみ探索を継続し、結合が維持されない構造はそれ以上追跡しない制限をつけて探索する方法を検討した。その結果、分子間に水素結合を形成するなど、分子骨格にかなりの変形を伴う場合であっても、極めて高効率で分子集積構造の自動探索が可能になることが見いだされた。この方法は、分子集積構造のみならず、分子中の内部回転等による立体配座変化の効率的探索にも応用できる見通しが得られた。
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