X線光電子分光法(XPS)は固体試料にX線を照射することにより、表面深さ数nmから放出される光電子のスペクトルを測定し、表面組成とその化学結合状態に関する情報を得る手法である。表面で発生した光電子を検出器まで効率よく導くため、従来のXPS測定には真空が必要であった。本研究では、シンクロトロンの硬X線を利用し侵入長の深い光電子を生成することによって、真空と電解質溶液を隔てる薄膜電極上での電気化学反応をXPSでその場分析するシステムの開発を行った。 要素部品である薄膜電極には十分な光電子透過性・導電性・耐久性が必要であるという観点から、初年度は材料探索と性能評価を行った。この結果、3つの条件を満たすシリコン薄膜を作製することに成功した。今年度はこれを用いたプロトタイプセルをいくつか作成し、本コンセプト(硬X線を利用したXPSによる電気化学反応の観察)の実証実験を行った。 シリコン薄膜電極に、水と接触させた状態で、正電位を印加する事によって、シリコン/水界面で電気化学的にシリコン酸化膜が成長する様子を観察した。また、このときのシリコンとシリコン酸化膜の厚さをサブナノメートルスケールで決定することに成功した。このように、本システムでは薄膜材料に含まれる元素の酸化状態変化をその場・実時間で決定できることが実証された。 現在、挑戦的萌芽としての研究段階を終え、二次電池や燃料電池などの電極反応理解を目的としたより実践的な研究段階への移行を図っている。
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