鎖状化合物の環化反応は環状有機化合物の合成法として一般的な手法である。しかし、これにより7~11員環を合成することは必ずしも容易ではない。5、6員環の形成に比べて、反応点が遠く離れていることに加え、中員環の渡環相互作用が反応を阻害するからである。一方、基質の鎖が環やアルケンなどの剛直な部分構造を含み折れ曲がり配座に規定される場合や、2つの嵩高い基が置換した4級炭素原子を含んでいる場合(Thorpe-Ingold効果)などは中員環形成も比較的起こりやすい。しかし目的化合物がこのような構造を含んでいるとは限らない。近年、中員環形成の強力な手法としてアルケンメタセシス反応が多用されているが、環形成への構造的バイアスのない基質の反応は未だ容易ではない。従って、基質の構造に依存することなく環化反応を促進し、中員環化合物を効率よく合成する手法の開発が強く望まれる。 当該研究者は分子フォールディングによる環化反応の促進に関してすでに成果をあげている。すなわち、キャビティー状のホスフィン配位子を設計・合成、金触媒によるアルキンの環化反応に適用し、前例のない7員環形成反応を高効率に実現している。この研究における分子フォールディングによる環形成をさらに拡張し、より一般的な反応原理として確立すべく本研究を行った。 その結果、従来型よりも深く狭いキャビティーを持つ配位子を新たに設計・合成し、金触媒によるアルキンの環化反応に用いたところ、これまで極めて困難であった8員環形成が効率よく進行することがあきらかとなった。本年度は特にその合成化学的有用性を実証する成果を得た。
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