研究課題/領域番号 |
23655027
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
関口 章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90143164)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 安定ラジカル / EPRスペクトル / 高スピン分子 / 酸化還元機能 / 常磁性分子 / 電子状態 / 有機高周期典型元素 / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
本研究は、炭素と同族の第3~第5周期元素であるケイ素、ゲルマニウム、スズなどの有機高周期典型元素をスピン中心に持つ酸化還元機能を付与した安定なラジカル化合物を合成し、カチオン、中性ラジカル、アニオン間の相互変換を自由に行うことができる電子状態を持つ常磁性分子を構築することを目的として研究を行った。また、単一分子内に複数のスピン中心を持つポリラジカルの基底多重度とスピン間相互作用について検討し、有機高周期典型元素ラジカルを磁性中心とする新規な有機磁性体材料の設計、開発の指針を得ることを目的として検討を行った。 本年度の研究実績として安定なケイ素ラジカルを合成する一般的な方法を確立することに重点をおいて検討し、ケイ素上に種々の電気陽性な置換基であるシリル基、フェニル基やアミノ基などのヘテロ原子が置換したブロモシランやヨードシランを当量のKC8による還元反応により、複数の置換様式をもつ安定なラジカルの簡便な合成法を確立することができた。X線結晶構造解析やEPRスペクトルの解析の結果、電気陽性な置換基をもつケイ素ラジカルはラジカル中心が平面性の高い構造を有するのに対してアミノ基などの電気陰性な置換基を有するケイ素ラジカルはラジカル中心が非平面化する傾向にあることがわかった。また、3つのケイ素置換基で置換した安定なケイ素ラジカルは光電子スペクトルの測定から6.2 eVと極めて低いイオン化ポテンシャルを有することを明らかにした。サイクリックボルタンメトリーの測定から還元側で可逆性があるものの酸化側は非可逆的であることを明らかにした。また、ケイ素ラジカル、ゲルマニウムラジカルやスズラジカルが化学的な反応によってカチオン、中性ラジカル、アニオン間の相互変換を自由に行うことができる可逆的な酸化・還元機能を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで申請者らが取り組んできたスピン中心をケイ素、ゲルマニウム、スズなどの高周期14族元素中心に持つ安定なラジカル分子の合成法をフェニル基やアミノ基などのヘテロ原子が置換した安定なシリルラジカルの合成まで発展させることができた。また、これらの安定なシリルラジカルのX線結晶構造解析やEPRスペクトルの解析の結果、電気陽性な置換基をもつケイ素ラジカルはラジカル中心が平面性の高い構造を有するのに対してアミノ基などの電気陰性な置換基を有するシリルラジカルはラジカル中心が非平面化する電子的な効果を明らかにすることができたことは重要な知見である。今回、電気陰性な置換基であるアリール基及びアミノ基を有するシリルラジカルの単離・構造解析に初めて成功したことは、高周期元素ラジカルの化学において重要な知見を与える研究実績である。また、その反応性の検討や分光学的手法により、フェニル置換ケイ素ラジカルが溶液中においてシクロへキサジエン構造を有する二量体との平衡混合物として存在することを見出したことも重要な成果である。また、ケイ素ラジカル、ゲルマニウムラジカルやスズラジカルが化学的な反応によってカチオン、中性ラジカル、アニオン間の相互変換を自由に行うことができる電子状態を持つことを明らかにしたことは機能性材料への応用が期待できる成果である。アメリカ化学会誌 J. Am. Chem. Soc. などの国際誌に2編の論文として掲載されたことから本年度の研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ本研究課題は順調に進展しており、研究計画の大幅な変更等は必要ないと考えられる。特に、安定な高周期14族元素をスピン中心とするラジカルを高収率、簡便な方法で合成する方法の開発は極めて重要である。また、その物性の検討からベンゼン環のメタ位で二つのケイ素ラジカルを連結することで高スピン化学種を安定に合成し、その分子構造の解明やEPRスペクトルの解析から、これまで第二周期元素をベースに行われていた高スピン分子の化学を高周期元素の高スピン分子の化学に展開して研究を推進していく予定である。また、また、ケイ素ラジカル、ゲルマニウムラジカルやスズラジカルが化学的な反応によってカチオン、中性ラジカル、アニオン間の相互変換を自由に行うことができる可逆的な酸化・還元機能を持つことを明らかにできたことからラジカル電池などの機能性材料への応用も検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ケイ素、ゲルマニウム、スズなどの安定な高周期14族元素ラジカル分子やアミノ基などのヘテロ原子が置換したシリルラジカルの合成法の条件の最適化および精密化を行うことが、今後の研究推進に必要であり、次年度研究においても引き続き合成研究を遂行する。このため、当初の計画では、今年度新たに冷却装置の購入を考えていたが、合成研究の遂行に必要な実験に係る消耗品購入に充てて検証を重ねることしたため、この分の研究費を次年度の使用計画と合わせて使用することとした。具体的には、これらのラジカル化合物の合成を主体とした実験に必要とされるガラス器具類、合成用試薬、溶媒類、不活性ガス類等の購入に充てる消耗品費を主に予定している。尚、旅費は申請者らが関連する国内の学会、討論会(日本化学会春季年会、有機金属化学討論会、基礎有機化学討論会、有機典型元素化学討論会など)、北米を中心に毎年開催されているSilicon Symposium、他の国際会議への参加し調査研究、研究発表を行うためのものである。これらの経費を研究費使用計画に含めている。
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